ミニマムパニック



生きていれば様々な出来事が一人一人に起きる。

そして時にはおかしな事が起きる。

それが自分にもされるとは思わないはず。

そんなある日、夏侯淵が目覚めると躯に違和感を感じて起き上がると自分の躯が縮んでいた。

「なんだ、これは!」

躯の全てが縮んでいたのに驚きを隠きを隠せない。

まず、視界が違う。

普段なら寝台から降りるのも簡単なのに、今は降りるのにも大変だ。

夏侯淵は寝台から降りると敷布が床について少し引きずる感じだ。

夏侯淵は全身を映す鏡を見る。
まるで子供と変わらない。

「仲権よりも小さいかも…」

自分の子供よりも縮んだ姿。
小さな躯になった夏侯淵は何が何だかわからない。
「これはどういう事だ。また殿の悪戯なのか?」
こんな躯にした張本人かもしれない曹操に文句を言う。
「起きたのか、それにしても可愛いな…」
曹操は笑いを堪えている。
また変な薬を使ったに違いない。
「港で噂の薬を試してみたんだが気に入らないのか?」
「気に入るか。元に戻して下さい!」
「せっかく可愛いのに」
「可愛いではない、仕事に差し支えがあるだろう」
「それには問題ない、能力はそのままで外見が小さくなっただけだから」
曹操は淡々と話す。
「俺が嫌なんだ、だから元に戻してくれ」
「折角だが暫くは元の姿には戻れない」
「どうしてだ?」
夏侯淵は驚きを隠せない。
「薬の説明書によれば、使用後に元の姿に戻るには約一週間は掛かるらしい」
「嘘だ!」
「嘘じゃない見て見るか?」
曹操は夏侯淵に薬の説明書を見せた。
確かにそれには曹操が言っていた通りに書かれていた。

『薬を服用した人を本来の姿に戻るには個人差は有りますが約一週間かかります』

そう説明書に書かれていた。
「では、俺は一週間この姿で過ごさなければならないのか?」
「安心しろ、その間は元譲や子孝が世話をしてくれる」
「惇兄と仁兄が?」
夏侯淵の従兄弟である夏侯惇と曹仁なら仕事も夏侯淵の世話もこなしてくれるだろう。
「二人には話をつけてある」
曹操に既に呼ばれて説明していたらしく、夏侯淵の姿を見た二人は驚きを隠せないがある意味呆れていた。
「孟徳…お前には呆れたぞ。淵に妙な事をするな」
「全く、何故妙才を子供の姿にしたんです?」
夏侯淵の傍に二人は近づく。
「惇兄、仁兄…」
「孟徳からは話は聞いたが本当だったんだな…」
夏侯惇が夏侯淵を抱き上げる。
「軽いな。淵の世話を俺達でする。仕事は淵の補佐をする形になるが」
夏侯惇は夏侯淵に微笑む。
「ああ、お願いします…」
夏侯淵は恥ずかしそうに呟く。
夏侯惇は夏侯淵を人形のように抱き締めた。
「妙才、誠に可愛いいな…」
「仁兄…」
曹仁は夏侯淵の頭を撫でた。
「本当に子供に戻って可愛いぞ」
「うわっ、惇兄、苦しいっ!」
「おっと、すまない…」
夏侯惇は力を緩めた。
「まあ、そういう事で暫くはよろしくな」
「まあ仕方ない。今回は淵の世話をしてやるがその分、孟徳には反省してもらおうぞ…」
「全く、元譲の言う通りですぞ」
曹操は二人からこびっとく説教を受ける羽目になった。
これから戻るまでどんな生活を送るのであろうか。
夏侯淵は不安をおぼえたのであった。



夏侯淵が曹操によって小さな躯になってから数日が過ぎた。
夏侯淵の側では夏侯惇と曹仁が世話をしてくれた。
「おはよう淵…」
夏侯惇が夏侯淵を抱き上げて抱き締める。
だが周りから見た状況は夏侯惇が夏侯淵を人形のように抱いているようにしか見えないだろう。
「可愛いな、淵は…」
「頼むからもういいだろう惇兄…」
「すまん、つい…」
夏侯惇はクスッと笑う。
夏侯惇は悪気があったのではないのはわかる。
「今日は仕事の内容もまだないからゆっくりできたらいいな」
夏侯淵は溜め息をついた。
曹操がこんな姿にしてくれたから外にも自由に出歩く事もできない。
「某は妙才と一緒に居られるから嬉しいぞ」
曹仁は目の前に小さな夏侯淵をやはり抱き締める。
「仁兄…、俺は人形ではないぞ」
「わかってるが、何故か抱き締めたくなる衝動にかられるのだ」
その気持ちはわからないわけでは無いが頼むから力を込めるな。
「仁兄、少し力を抜いてくれ」
「すまん…」
曹仁は夏侯淵を開放する。
「楽しんでいるか妙才」
「殿…」
「あ、おはよう孟徳…」
「折角の所だが、仕事が入った。二人共、妙才の補佐を頼む」
「「解った…」」
夏侯惇と曹仁は夏侯淵に微笑んだ後、曹操と仕事を始める。
今の自分では曹操の役には立たない。
小さな躯でも仕事はできるが、やはり限界がある。
「俺も手伝うぞ…」
夏侯淵が曹操達の元にヒョコヒョコと歩いて近く。
「妙才…」
「もともとは妙才の仕事だから子孝は妙才の指示をあおいでくれ」
「了解しました」
曹操の言葉に曹仁は返事をする。
「この仕事なら簡単な作業で終わるな…」
夏侯淵が仕事内容を見て判断する。
曹仁は夏侯淵を抱き上げて椅子に座り膝に夏侯淵を乗せる。
「さあ、始めましょうか妙才」
「ああ…」
夏侯淵の笑顔が曹仁に向けられる。
なんて可愛いんだ。
それに我等は従兄弟だろうが。
曹仁は首を横に振り思考を払う。
夏侯淵と曹仁は最初は簡単な書簡の処理をしてその後は膨大な量の書簡を手掛けていった。
そして最後は軍の機密情報の処理をして今日の仕事は終了した。
さすがに三人がかりなのでいつもより今日の仕事は早めに終わった。
「いつも、俺が淵の側で手伝う事ができればいいのにな」
「惇兄…」
夏侯淵はいつも一人で全てを抱えてしまうから。
だから手助けしたい。
俺達は従兄弟で仲間なんだから。
夏侯淵は夏侯惇と曹仁の頭に手のひらを置く。
そして頭を撫でてやる。
「淵…?」
「妙才…?」
「優しな二人共、俺は二人の気持ちは嬉しいぞ」
「そうか…」
「気にするな…」
二人は嬉しくて夏侯淵を力一杯抱き締めた。
「うわ、惇兄、仁兄、何をするんだ?」
さすがに夏侯淵も驚いた。
「「妙才、大好きだぞ」」
「惇兄…仁兄…」
まあ、こんなのもたまにはいいか。
それに従兄が笑ってくれるだけで充分だ。
「二人が笑っているだけで俺は嬉しいよ…」
「妙才が可愛いからだぞ」
「そうだな…」
三人はただ笑って過ごせる日々に感謝したいと思っていた。
そんな様子を曹操が見ていた。
「えー、折角の所邪魔をして悪いが仕事は終わったようだな」
曹操が割って入った事に夏侯惇と曹仁はつまんない様子で曹操を見る。
二人は言葉に出さないが毒を吐く。
(お前が淵をこんな姿にしたのは感謝しているが淵と一緒に居る時間を邪魔するのは許せないな…)
そんなオーラを醸し出していたのを曹操はすぐに気付いた。
(いかん、儂は今絶対に地雷踏んだっぽいな)
「殿、今回制作した書簡をそちらに送る、それで今日は終わりですよね…」
「ああ、今日はご苦労様であった」
曹操はそう言うとすぐに部屋を出ていった。
「殿の奴、何を慌てているんだろうな」
「孟徳も忙しいからではないか?」
夏侯惇は夏侯淵に極上の笑顔で答えた。
夏侯淵は訳がわからずにいた。
「やっぱり、淵は可愛いな…」
「そうだな…」
夏侯惇と曹仁はいつまでも夏侯淵を愛でていったのであった。



後日、曹操の元に二通の書簡が届いた。
内容を見るとそれは夏侯惇と曹仁からであった。
『絶対に妙才は孟徳には渡さん、それから妙才と一緒にいる時間を邪魔するな!』
それは曹操に対しての挑戦状に近いものであった。
やっぱり儂は地雷を踏んだらしい。
夏侯惇と曹仁いう触れてはならない地雷に。
自分がしでかした行為に後悔しはじめたのであった。





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