目が離せない



呂布に捕われた夏侯淵は呂布の城に連れて来られた。
これからどんな仕打ちをされるかわからないが自分は死を覚悟していた。
魏の国の為に捕虜になるなら死を選ぶのは当然の事。
もう従兄である夏侯惇に会えないのが辛かった。
薄れ行く意識の中で呂布が笑っていたのをうっすらと見て夏侯淵は闇に落ちた。
「張遼、張遼はいるか?」
「呂布殿、お呼びですか?」
物腰柔らかに呟く男が呂布の側に現れる。
「張遼、俺はついに捕らえたぞ。夏侯妙才を…」
寝台に横たわり、ぐったりとして気を失った夏侯淵を張遼は目に映す。
「おお、それは何よりでごさいます…」
張遼は呂布にそう呟く。
あの魏の武将である夏侯妙才を簡単に捕らえるとは流石と思った。
「張遼、お前にはこいつの監視と世話役を頼む」
「私がですか?」
「ああ、だがこいつに手を出すなよ。その時はわかっているな…」
「呂布殿、何故私にですか?」
「信用できるからだ。それ以外の男には触れさせたくもない」
独占欲丸出しな言葉に張遼は呆れてしまう。
素直になれない男は恋愛に対しても不器用であった。
普通に接すれば相手も逃げもしないし、怯えもしない。
彼は自分から言い出せない部分があるようだ。
全く子供の我が儘に付き合う気分にもなる。
張遼は仕方ないと思った。
若い主にとって初めて好きになった者。
男であろうが女であろうがその恋を実らせたい。
だが、私がその者の世話をするとは複雑な気分であった。
「わかりました。張文遠、この者の世話の大任を承けましょう…」
張遼はそう言って呂布を安心させるように呟く。
「ああ、頼んだぞ…」
呂布は張遼の答えに満足したのか寝台に横たわる夏侯淵に近づきその頬に触れた。
「また会いに来る妙才…」
意識のない夏侯淵に軽く口づけると呂布は部屋を出て行った。
主が居なくなった部屋で張遼は緊張感から解放されて溜息をついた。
本当にあの呂奉先なのか。
鬼神と呼ばれた男の威厳は何処へやら。
惚気た姿は初めて見た。
本当にこの男の何処を気に入ったのか張遼も気になってしまう。
「敵の城にいるのにも関わらず普通に横になっているのも凄いな…」
張遼は寝台に腰掛けて夏侯淵を見つめた。
「…う…んっ」
ようやく意識を取り戻したのか夏侯淵が目覚めた。
「…此処は何処だ?」
夏侯淵はゆっくりと起き上がり辺りを見回す。
見慣れない部屋を見つめた。
「気がつきましたか?夏侯淵殿」
張遼が夏侯淵に話掛けた。
「お前は誰だ?」
知らない男が寝台に腰掛けて話掛けてきたので警戒心が現れる。
「落ち着いて下さい。私は張遼文遠…此処は呂軍の城でごさいます」
「呂軍…そういえば呂布に無理矢理連れて来られたんだっけな」
あれは夢ではなかったのか。
愛していると囁かれただけではなく口づけもされた。
あんな強引な男に言いようにされるなんて不覚だ。
「私は貴方の世話役を言い付けられました。何か解らない事があれば申し付けて下さいませ…」
「なら、俺を今すぐに解放しろよ」
「それは出来ない相談ですな」
張遼はきっぱりと否定した。
「張遼と言ったな、仕方ないが世話になる…」
夏侯淵は張遼にそう呟く。
「こちらこそ…よろしく」
張飛は張遼に挨拶をそこそこに辺りを見回す。
「そういえば呂布の奴はどうした?」
「呂布殿なら多分ですが遠出に出たと思います…とりあえず湯浴みをして躯を綺麗にしたらいかがですか?」
張遼は夏侯淵に呟く。
気を失う前は戦場で戦っていたもので血生臭いのは確かだ。
「お言葉に甘えさせてもらうぜ…」
張遼の案内により湯浴み場に向かった。
「広いな…でも俺は捕虜なんだろ。どうして自由なんだ?」
敵に捕われたのなら枷の一つ付けられているなら解るが自分は普通に過ごしているのが疑問だな。
「呂布殿が気に入っている貴方に枷をつけたら私達が叱られますよ」
張遼はにこやかに笑い、夏侯淵の鎧を脱がすのを手伝う。
そして夏侯淵の鍛えぬかれた肉体が露になる。
「ほう…見事でございますな…」
張遼は夏侯淵の肉体をまじまじと見る。
「あ、あんまり見るなよな」
夏侯淵は躯を両腕で隠すように覆う。
成る程、あの呂布殿が惚れ込むのも無理はない。
この自分でさえも惹かれてしまった。
「さあ、躯を綺麗にしてさっぱりしてきて下さい。私は外で待ってますので…」
「待ってくれ…すまねえが勝手が解らなくて、手伝ってくれないか?」
「えっ、私が手伝うのですか」
張遼の腕を掴み頼んでくる夏侯淵に張遼は焦った。
主よりも先に裸を見ただけでも許されないのに、一緒に湯浴みをしたと知られたら呂布に何をされるか解らない。
だが、確かに初めての場所で勝手が解らないのなら教えるか手伝うしかないだろう。
張遼は溜息を一つついた。
「解りました…そんな目で見ないで下さい」
張遼は自分の着ていた着物を脱いで腰に布を巻いた状態で湯浴み場へと夏侯淵と一緒に入った。
張遼は夏侯淵の隣に座った。
「背中を洗うのを手伝いますよ」
泡だった布を持って張遼は夏侯淵の背中を洗う。
「あっ、すまない…」
他人に背中を洗ってもらうなんてなかなかない。
恥ずかしいがそこは我慢して張遼に背中を預ける。
「まことに立派な肉体ですな、憧れますぞ…」
「何言ってるんだ。張遼の方も細身なのに無駄な肉もなく鍛えてるじゃないか。やっぱり鍛え方が違うのかな?」
自分の躯と張遼の躯を比較して見てくる夏侯淵は張遼の方を向くと突然、腰を掴んだ。
「なっ、何をなさいますか!?」
流石の張遼も驚きを隠せなかった。
「いや、やっぱり細いから羨ましいんだよ…」
自分は鍛えてはいるとはいえ、ふくよかな部分がある。
とくに腹の部分が。
張遼のように細ければ動きは更に良くなると思うが。
「まあ、鍛え方は人それぞれですから仕方ありませんね。私は夏侯淵殿のような均等な筋肉の付き方が羨ましいですよ…」
張遼も夏侯淵の躯をぺたぺたと触れる。
「そんなものか?」
「ええ…」
お互いの躯を触り合っていた時であった。
張遼が躯を起こそうとしたその瞬間、床が滑り張遼は足を滑らせた。
「うわっ、あっ…」
そして滑った張遼は目の前にいた夏侯淵を巻き込む形で倒れ混んだ。
「痛っ〜、だ、大丈夫か?」
「ええ、何とか…」
張遼が躯を起こそうとして、気づいた。
張遼が夏侯淵を押し倒している構図になっていた。
張遼はまずいと躯を退かそうとした瞬間であった。
「あ…んっ」
張遼の膝が調度、夏侯淵の欲望を布越しに触れた。
夏侯淵は突然走った快感に声を上げてしまった。
気まずい雰囲気が辺りを包む。
「すまない、私とした事が今すぐどきます…」
「張遼…貴様、何をしている?」
背後から聞き覚えのある声が耳に届く。
張遼がゆっくりと振り向くと主である呂布が入口で佇んでいた。
「あの、これは夏侯淵殿の湯浴みを手伝ってましたら足を滑らせただけですよ」
張遼は呂布にそう言うが呂布にとっては言い訳にしか聞こえないのであろう。
「俺の妙才に手をだすとはいい度胸だな…」
「違うんだ、本当に張遼は俺が頼んで手伝ってくれただけだ!!」
夏侯淵は張遼を庇うように立ち塞がる。
上半身裸で睨みを利かせている。
それだけで男の欲をそそる。
「妙才…貴様誘っているのか?」
「はっ、何を言ってやがる?」
「このまま俺が抱いてやろうか妙才…」
「調子に乗るなっ、呂布、お前は出ていけっ!」
夏侯淵は呂布を湯浴み場から追い出した。
「はぁはぁ、全く、あいつが絡むとゆっくり湯浴みも出来やしない…」
「すまない夏侯淵殿、私の為に…」
「気にするなって、あいつが勝手に勘違いしたのが悪いんだからよ」
夏侯淵はにこりと笑った。
その笑顔を見た張遼はどきりとした。
その笑顔を見ただけで張遼は心を惹かれた。
「夏侯淵殿…私も貴方の事が好きになってしまった」
「張遼…?」
「貴方に想いを寄せる事を許して下されよ…」
張遼は夏侯淵の耳元で囁くと更に夏侯淵を抱きしめた。
「張遼…」
恥ずかしくなって顔を真っ赤になる。
「俺も張遼の事嫌いじゃないぜ。まあ精々と俺を飽きさせないようにしてみせろよ…」
「ふふ、飽きさせませんぞ…」
張遼は夏侯淵に更に惹かれていったのであった。





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