近そうで、遠すぎて



何度呼び慣れた名前と幾度触れた温もりを確かめるように。

触れた唇は熱かった。

だけど胸に残った虚無感が薄れる事は無かった。

誰よりも伝えたい言葉は言えずにいる。

闇の中でさ迷い、暗躍していた自分に光を与えてくれた。

そして変えてくれた。

「夏侯淵殿、どうした?」
珍しく考え事に集中しているに張遼が話掛けた。
「…張遼」
「珍しいな、貴方が気配に気付かないなんてな?」
「それは張遼が気配を消すのが得意なだけであろう」
皮肉を口にして笑う。
「何かあったのか?」
「いや、何も無いよ張遼」
届きそうで届かない指先。
触れれば想いが分かってしまいそうで。
胸が痛い。
これは病なのか?
それともこれは恋か?
調べても分からないであろう。
自分の中に生まれた感情。
只、傍に居たい。
離れたくない。
貴方のその指先で触れたらこの気持ちがどんなカタチになるのか。
きっと言葉にすれば関係が壊れてしまうかもしれない。
答えはでていた。
もう、とっくに。
なのに言葉には、出せないでいる。
いつか、別れなくてはらない。
ならば伝えても意味が無い。
夏侯淵が傍に居ないなら伝えても仕方ない。
「嘘を言うな、張遼は何か言いそうな顔をしている」
夏侯淵が張遼の頬に掌を当てた。
「…拙者は、夏侯淵殿とは別れたくない。ずっと一緒に居たい。無理なのは分かっている」
「張遼…お前には辛い想いをさせてばかりだな」
夏侯淵が張遼を抱き締めた。
「分かっていてもやはり現実を見るのは嫌なんだ…」
自分の命より大切な物があることは罪なのか?
責めるべきことなのか?
「夏侯淵殿が好きだから、離れたくないんだ」
張遼の必死の呼び掛けに、夏侯淵の告げた言葉は胸に突き刺さる。
「俺も愛してる、だが供に生きる事はできない」
そう、貴方とは生きる場所が違う。
永遠の別れとなるだろう。
それでも貴方を愛してる事は嘘じやない。
思いでとなるなら忘れない。
「かまわない、夏侯淵殿が拙者を想ってくれるだけで幸せだ」
「ああ、張遼…愛してるよ」
「拙者もです…」
張遼は優しく夏侯淵に口付けする。
目を瞑り受けとめた。
ああ、貴方の温もりを忘れたりは、しない。
このまま一つになって溶けてしまえばよいのに。
そうすれば離れる事は無いのにな。
運命の歯車は無情にも動き出す。
自分はなんて無力なんだ。
それでも貴方を愛してると叫び続けるから。
ずっと…愛してる、貴方だけを。





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