静かな夜



傷も痛みも言葉にすると

涙までこぼれて泣いてしまいそうになる

黙ったままの君の背中

月が照らすからまぶしくて

罪深き汚れない君にひどくいらだつ時もある

だけど

雨にまみれた俺を癒したのも確かなんです

抱きしめたくてきりがないんだ

いつか

いつか君にもわかるだろう

真実はひとつだけじゃないことを

伝えれない気持ちと揺れ動く心

いつかわかるだろう
どうして二人を繋ぐのか

「………………」
曹仁は自分の屋敷で酒を飲んでいた。
今日は珍しく独りではない。
寝室には夏侯淵が眠っている。
側にいれば無理矢理にでも組みひいて犯してしまいたくなる。
純粋で汚れない魂。
自分の両手は血に染まっている。
触れたら傷つけてしまいそうだ。
夏侯淵が泣きながら曹仁を頼ってきた。
そんな夏侯淵を独りにするなんて出来なくて屋敷に招いた。
従弟でも悩みはあるのだな。
夏侯淵は淡々と悩みを打ち明ける。
自分には向けられない気持ち。
涙に濡れた瞳に引き寄せられる。
「仁兄…?」
首を傾げる仕草。
一つ一つの行動に目を離せなくなる。
夏侯淵の腕を掴み引き寄せる。
鍛えられた躯は私の腕の中に収まる。
「な、何を?」
「…妙才」
顎に手をかけて、口づける。
「んっ…んぅ」
貪るような口づけ。
それだけでは満足出来なくて。
もっと汚したい。
こやつを。
自分のものとして鎖に繋いで誰の目に触れさせたくないようにしようか?
そうすれば自分だけを見てくれる。
曹仁の唇がゆっくりと離れる。
腕の中で荒い呼吸を繰り返す従弟。
「悩みを聞いた報酬としてもらっておくぞ…」
曹仁は夏侯淵に囁いた。
夏侯淵は言葉を聞いて耳まで赤くなった。
可愛い奴だ。
「今宵はもう遅い、泊まっていけ…」
きまぐれなのか、こやつと一緒に居たいのか分からない。
無意識に言葉が出た。
「いいのか?」
「…ああ、そんな顔で帰れるならな…」
夏侯淵は泣き過ぎて目は赤くなり、とても人前に出せるものではない。
「では、ご好意に甘えるよ…」
曹仁は着替を用意して夏侯淵に渡した。
「寝室は向こうだ…」
指を指して夏侯淵を導いた。
「ここは好きに使え…」
曹仁は寝室から離れようと歩き出す。
夏侯淵は後ろから、腕を引いた。
「何だ?」
「あの、一緒に寝ようよ?」
「寂しいのか?」
「…うん」
曹仁は夏侯淵を連れて寝室に入る。
「今回だけだぞ…」
「ありがとう仁兄…」
曹仁は夏侯淵とともに寝台に躯を横たわす。
久しぶりに感じた体温が心地良い。
しばらくして微かな寝息を感じた。
どうやら寝たらしい。
曹仁は起こさぬように寝台から離れ寝室を出た。
秘蔵の酒を取り出し縁側に座り、月を見て酒を飲んだ。
ひとのきもしれない。
知らないほど恐ろしいものはない。
曹仁は夏侯淵に依存しているらしい。
まだ、唇には感触が残っている。
こんな夜もたまにはよかろう。
曹仁は酒を飲んで静かな夜を過ごした。





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