ささくれた心



こんなに苦しくて辛いならずっといる事なんてしなくていい。
憧れたあの背中を追いかける日々はもう止めよう。
自分はもう大人で憧れたあの人も大人。
いつまでも子供ではないのはわかっていた。
夏侯惇の従兄弟である夏侯淵はそう思えるようになった。
いつまでも側にいても足手まといで迷惑になる。
だから、暫くの間は夏侯惇に会う事はなかった。
むしろ、夏侯淵が夏侯惇を避けるようになった。
仕事で忙しい故に、曹孟徳の側近としてなにかとぴりぴりしている。
そんな雰囲気を醸した夏侯惇に会う勇気はなかった。
何だが、独りになると胸がこんなに痛むのは何故なのかわからない。
優しい惇兄は好きだ。
だけどその兄が他の人のものだとわかっているから自分は身を引いた。
これでいいんだと思って惇兄を避けた。
決して嫌いになった訳じゃないのに。
苦しくて辛くて胸が痛い。
「淵…話があるんだが」
突然、無断で部屋に入ってきた夏侯惇が夏侯淵の側にくる。
「惇兄…」
夏侯淵は夏侯惇の顔を見たくなくて下を向いた。
「淵、お前…俺を避けているな。一体なぜだ?」
「そ、それは…」
夏侯惇が夏侯淵の顎を掴むと顔をあげさせる。
「どうした、俺が何かしたのか?嫌いになったのか」
「ち、違っ、そんな訳…」
いまにも泣きそうな表情を浮かべる淵に夏侯惇は溜息をついた。
「そんな顔をするなら何故避けるような事をした?」
夏侯惇は問い掛けてくる。
「惇兄の事が好きなんだ。だけど、こんな想いは迷惑だから、だって惇兄は操兄のものだから…」
悔しくて涙がぽろぽろと落ちてくる。
本当は泣く気はなかった。
惇兄の顔を見ていたら辛くて寂しくて涙が溢れて落ちる。
「馬鹿な奴だな…」
溜息混じりに夏侯惇が呟く。
「俺の一番好きなのが誰か知らないのに勝手に想って、勝手に避けてたのか?」
夏侯惇の言葉に自分は頷いた。
「淵…」
夏侯惇がゆっくりと淵の唇を己のそれと重ねる。
「んん…んっ…!」
性急過ぎる口づけに淵は苦しそうにもがくが夏侯惇は逃がしはしまいと顎を掴み固定する。
愛しくて可愛い弟。
誰よりも愛しい。
夏侯惇が満足した頃には夏侯淵はぐったりとして夏侯惇にその身を委ねた形となる。
「あっ…はっ…あっ」
「俺が一番好きなのはお前なんだ淵。お前が俺を避けていると知って傷ついたぞ…」
「ごめん惇兄…」
「もう俺を避けるのは止めろ。お前が側にいないと落ち着かないからな」
「わかったよ…」
やっぱり惇兄には敵わないなぁ。
「…淵、愛しているぞ」
「俺も惇兄の事大好きだ」
二人はもう一度口づけを交わしたのであった。





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