満月の夜



いつもの日常。
それが破られたのはいつの頃だろう。
今宵も夜空に月が昇る。
満月の夜はあの人との約束を果たす時。
普段会えないから、この時だけでもいいと誓いあった。
「夏侯淵殿…」
影から現れる自分よりも年上な彼。
血の臭いを纏わせている。
「ホウ徳…」
いつもの時間に自分の屋敷に来るホウ徳を部屋に招き入れる。
そして深く深く愛し合う。
強引だけど、触れてくる彼が好きだ。
この行為をしている時だけでもホウ徳が自分を見ていてくれる。
一つになっていると実感する。
「ああ…んあ…っ」
ホウ徳が夏侯淵の奥を深く突く度に甘い嬌声を上げる。
「もっと…突いてぇ…っ」
「随分と淫乱になったものだな…誰かに抱かれているのか?」
ホウ徳が耳元で囁く。
「違う…俺はホウ徳以外に抱かれてなんていない…貴方を想って自慰に耽っていたのに」
顔を赤く染めて正直に言う夏侯淵が可愛いと想った。
「ふっ…わかっている。もしそんな奴がいたらこの手で八つ裂きにしてやる」
ホウ徳は軽く口付ける。
「貴殿は私のものだ…」
愛しい身体を抱き締めた。
「ホウ徳…愛してる」
「私もだ…夏侯淵殿」
ホウ徳は行為を再開する。
深く繋がる行為をする度に濡れた粘着音が部屋に木霊する。
「いい…ああ…はぁんっ」
夏侯淵はホウ徳の背中に爪を立てて痕を残す。
この温もりを手放したくないように足を絡みつけてくる。
「あふぁ…はぁ…っ、ああ、あぅ…」
「そんなに悦いか?」
言いながら腰を動かして更に深く突く。
「おねが…ホウ徳…も、ぅ…」
夏侯淵が限界を訴える。
「イきたいのか?」
その言葉に夏侯淵はコクンと首を縦に振る。
「ああ…一緒にイこう…」
優しく口づけてから腰を強く掴み律動を早める。
「あっ、ああん…ひゃあっ」
強い快感が夏侯淵の体を駆け抜ける。
足の爪先までがピンと張り敷布を蹴る。
ホウ徳は夏侯淵の感じる箇所を責めたてて限界へと追い詰
める。
「ああ…もう…イくぅ、ひゃあああんっ!!」
夏侯淵の秘所がキュウっと締め付ける。
脳髄まで突き抜けた快楽が夏侯淵の体を小刻みに痙攣させる。
「くっ…!!」
ホウ徳も締め付けに絶え切れずに夏侯淵の最奥に精を注ぎ込んだ。
夏侯淵が意識を手放したのはそれから少ししてからであった。
こんな事繰り返す度に虚しさが込み上げる。
本当はわかっている。
彼を自分のものにはで出来ない事を。
それでも痕を沢山残して自分のものにしたいという気持ちが強くなった。
「私を狂わせたのは貴殿なのだから…」
涙に濡れた痕が残る頬に触れる。
私が抱いた痕を残したいのにいつかはそれさえも許されないのだろうか。
他の誰かのものになるならいっそうの事、この手にかけるかと思った。
それが夏侯淵の為では無く自分のエゴを押しつけてしまっているからだ。
だからずっと一緒にはいられない。
こんなにも愛しい存在なのに。
「こんな私を憎め…夏侯淵殿」
所詮、血濡られたこの腕に抱く権利など最初から無かったんだ。
それなのにこの者に出会えたのは奇跡だろう。
「夏侯淵殿・・・愛してる」
また満月が昇る夜に会おうぞ…。
それでもいい、彼が私を忘れる事を出来ないように記憶に刻み込めばいい。
そうすれば貴殿は忘れる事無く私を想ってくれるのだから。
それだけで私は幸せなんだ。
ホウ徳は深い闇に姿を消したのであった。





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