還れる場所



いつからか気になったんだろうか?
以前の自分では考えられなかった。
これ程まで誰かを想い続けるなんて。
しかも相手は女ではなく年上で男ときたものだ。
信じられないという気持ちで頭がイかれたんじゃないか。
最近はそう思い始める始末。
あの曹操に恋焦がれているなんて、絶対に口にしたくもない。
曹仁は曹操が追いかけてくる度に必死に逃げようとする。
めんどくさいだけではなく、曹操を正面に見れなくなったからだ。
「子孝…、少し付き合ってもらうぞ…」
曹操の言葉に曹仁は、睨み付ける。
「断る…」
その言葉を言うと曹仁は立ち去ろうとする。
「逃げるな子孝!!」
曹操は曹仁の服を掴んだ。
服を引っ張られて曹仁は振り向く。
「殿、服を放せ。伸びるだろ」
「お前が儂を避けるからだ、最近は儂を避ける事が多くなったな…」
「だから何だ?」
曹仁は内心ドキドキしていた。
「そんなに儂が嫌いなのか子孝よ?」
曹操は未だに曹仁の服を掴んだままでいた。
「嫌いじゃないがしつこいのは好かないだけだ」
「じゃあ相手になってくれるな?」
曹操の言葉に曹仁は、めんどくさい表情をした。
「生憎だが、殿に付き合っている暇はない」
曹仁は早くこの場から離れたかった。
胸の鼓動が早鐘のようにドクン、ドクンと鳴っている。
息が出来ない。
苦しい。
こんな弱い自分をさらけ出すなんて、なさけない。
目の前に居る曹操の姿を見ているだけで、弱くなる。
これも、曹操に惚れたのが原因。
想いを伝える事も出来ない程弱い自分が憎い。
「儂から、逃げるな子孝!!」
曹操は曹仁を強く抱きしめた。
曹仁は信じられなかった。
ああ、曹操に、恋焦がれた貴方に触れられる。
すごく嬉しい。
このまま時が止まればいいのに。
曹仁は曹操に抱き締められても抵抗一つしなかった。
本当なら文句を言って抵抗するのにそれすらしない曹仁に曹操は疑問を持った。
「子孝、どうしたんだ?」
曹操は曹仁の顔を覗き込む。
曹仁は恥ずかしいのか顔を赤くして黙っていた。
「子孝…顔が赤いぞ。どうしたんだ?」
その言葉に曹仁は正気に戻った。
「何でもない、いい加減離れろ…」
睨みを利かせたまなざしを曹操に向ける。
だが曹操は曹仁を放すどころが逆に強く抱き締められる。
「子孝…儂はお前を追い求めてきた、それはお前を愛してしまったから。子孝がどんな風に思っていようと、嫌っていようと儂はお前だけを愛するでしょう」
曹操は笑顔で曹仁に告白した。
曹操が俺を愛していると言った。
俺だけじゃなかったんだ。
嫌われていると思った。
いつも曹操の言う事を聞かないで自分が行った行為で彼は怒っていたから。
なのに何で?
俺を愛する気持ちがどうして湧くんだ?
わからない。
だが、曹操は俺を好きだと愛していると言った。
「子孝…泣くほど儂が嫌いなのか?」
泣く、俺が?
曹仁は自分が泣いている事を曹操に言われて気付いた。
「違う…嫌ってなんていない」
やっと出せた言葉は震えていた。
むしろ…逆だ。
俺が曹操を求めていた。
曹操は至高の花のような存在。
罪深い俺が触れていい筈が無いと思っていたから。
「泣かないでくれ子孝…」
曹操は優しく口付けた。
「んん…っ」
曹仁は驚きのあまりに目を見開く。
あの曹操に口付けされた。
曹操に…。
曹仁は段々と力が抜けて曹操に身を委ねる。
ゆっくりと唇を放すと曹仁は曹操に甘える。
「もっと、もっと触れてくれ殿…」
「ああ、お前が望むならいくらでも触れてやる」
は自分の気持ちを曹操に伝える決心をした。
「孟徳…好きだ」
「子孝…」
「ずっとお前だけを想っていた」
やっと言えた告白に曹仁は顔を赤く染める。
「儂もだ、子孝…ずっと儂もお前に惹かれてましたから」
「嫌われていたと思っていたから殿から離れようと距離を置いたのに何でだ…、好きだなんて信じられなっかったんだ」
「確かに子孝はいつも儂を心配かけまいとしていたな…だけどその分二人でいる時間は長かった」
確かにそうだ。
「子孝に信頼してたし憧れた事も事実だ…」
曹操は優しく曹仁の髪を撫でた。
「こんな俺が人を愛する資格なんて無いと今でも思っている。だけど殿だけを愛するのは罪か?」
「いいや、神が許さなくても儂がお前を赦す…」
「孟徳…」
曹仁は曹操の腕の中で泣いた。
ずっと想っていた事を苦悩を流すかのように声を殺し泣き続けたのであった。
「子孝…子孝…ずっと儂がお前を愛してやる。死ぬ時までずっと…」
「孟徳…愛してる」
曹仁は曹操に口付けをする。
やっと触れる事が出来た愛する人を抱き締めて放さないように強く強く抱き締めた。
お願いだからずっとこの手を離さないで欲しい。
「泣かないでくれ子孝…」
「殿のせいだからな責任とれよ」
「儂で良ければいくらでも責任はとるぞ」
曹仁の言葉に曹操は優しく囁く。
「勝手に言ってろよ…」
曹仁もいつの間にか涙は止まり笑顔が零れた。
今だけは好きな人と同じ時を側にいて生きられるだけで幸せだと、曹仁は感じた。
「子孝、儂はお前が欲しかった…」
曹操が曹仁の耳元で囁く。
その言葉に曹仁は不思議に嫌だと感じる事はなかった。
むしろ嬉しさと喜びの感情が溢れた。
「ああ…」
だから忘れないでくれ、この体温は貴方と同じ、例えいつかは死が迎える事になろうとも、いつかは生まれ変わりずっと貴方の鼓動を探し続けるから…。
「愛してるぞ、儂の子孝…」
「孟徳…」
曹仁は曹操の体温を感じたままゆっくりと瞼を閉じた。
優しくて安心する場所を自分はやっと見つけたのかもしれない。
どんなに傷ついても、辛くても曹操が俺の唯一の帰れる場所だと、そう心から想ったのであった。





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