12

*****







五月蝿い会話を遠巻きに見つめながら、シカマルはふと視線を背後に向ける。
……終始静かに何かの書物を読み耽るナルト。
最早ドべのうずまきナルトの面影なんて見る影も無い。
あのむさ苦しい演技も見てて疲れるから、別にこれはこれでいいんだが。



―――トン、


「!」



ナルトの手元の本が閉じられた。
慌てて目を逸らそうとしたが、間に合わず碧い目とばっちり視線が合った。
首の凝りを解しながら歩み寄ってくる。
…めんどくせー。



「……な、なんだよ」



ん、と怠そうな声と共に差し出されたのは今までこいつが読み耽っていた本。
表紙には題名も何も記載されていない為、何の本か得体も知れない。



「受け取らねぇのか」

「い、いや。ありがとよ」

「IQ200もあれば読めんだろ」

「…あ、おう」



オレが慌てて受け取れば、欠伸と共に先に歩いて行ったナルト。
…読み終わった本なんか持ち歩くの面倒臭ぇし、こいつにでもあげちまおう、ってとこだな多分。
捨ててやろうかとも思ったが、それこそ面倒臭い事になりそうだ。
大人しく終おうとして、中身が気になって本を開いてみる。
…暗号文だ。こんなもん読めるかよ。



「いつまでこんな集団でダラダラ歩くつもりだ?」

「…」

「組織の内情調査くらいオレが先に済ませといてやるよ」



暗号書のお陰で今まで大人しかったナルトが、遂に動き出した。
任務中にも関わらずこの上ない我儘を主張するナルト。
こうなったら誰にも止められない。
いや、―――今回は一人いる。



「お前は黙って本でも読んでろ」



流石名前。
相手がナルトであろうと憶する事なくズバッと言い放った。



「暇過ぎて最後まで読んじまった。お前等は薬物の押収に回ればいい」

「却下。内情調査は俺の班全員で担当する」

「……。」



ナルトが無言で名前に歩み寄る。
誰もが名前の身を案じつつ見守る。



「首にいいモン付けてんな」

「!」

「なんだそれ。飾りか?」



ナルトがニヤリと笑う。
心から楽しそうな笑み。
対して名前も鋭い目付きでナルトを睨みつつ、口元に笑みを浮かべる。



「あんまり俺に話し掛けないでくれるか」



…超仲悪いじゃねーかよこいつ等。
笑顔で言う台詞じゃねぇよ。
辺り一帯に妙な緊張感が走る。
こいつ等一緒に里抜けした仲なんじゃねーのか?
ギスギスした空気の中…それでもナルトは普段の様な勝手な行動は一切見せなかった。









*****








「………。」



内情調査では何も掴めず、疑惑は白である可能性が浮上した。
明日再び調査に向かう事となり、急遽宿をとりカカシ班と情報交換に勤しんでいた。
話の合間にチラリと窓辺へ目をやる。
…情報交換にさえ加わろうとしないナルト。



「名前?」

「…ああ、悪い。何だっけ」

「もう、聞いてなかったの?」



あれから初めて顔を合わせたが、やっぱりいつもと違う。
あいつの瞳の冷たさ。
今朝からずっと…殺気こそ含まれていないが、俺の一切を拒絶する様な瞳を向けてくる。
それもどうやら、俺だけに。
…気にするなという方が無理がある。
再びチラリとナルトを盗み見る。
―――窓から夜空を見つめる碧い瞳。
…いつもの瞳だ。



「…ナルトがどうかしたの?」

「!」


サクラに耳打ちされて、慌ててナルトから目を逸らして話に耳を向ける。
別に、とはぐらかすが意味深な目でじとーっと見つめてくる。



「あんた、もしかして…!…い、痛い痛い…!嘘よごめんなさい!」

「わかればいい」



妙な誤解をされては堪らないのでサクラに少々喝を入れて、情報交換に神経を集中させようと試みる。
…そもそもこんな厄介な傷付けられてる俺が拒絶するならまだしも、なんで俺が拒絶されなきゃならない。



「ナルト、お前は何も掴めて無いのか?」

「…」



カカシの問い駆けに、ナルトの視線が窓の外から此方へと移る。
何か口を開きかけたとき、俺と目が合った。



「…。」

「…。」



どうして、そんな目をする?
―――拒絶の眼差し。
殺気を向けられた方が、マシに思える。



「ナルト?」

「……いや、無い」




カカシに短く答えると、そそくさと部屋から出て行ってしまった。
部屋に残されたのは暫しの沈黙。



「……なあ名前、お前等何か変だぞ」



キバの言葉にも、曖昧に答える事しかできない。
自分には心当たりが無いのだから。
元々読めない奴だった。
冷酷だと思えば優しいし、嫌われてると思えば助けてくれるし。
だけど今回はそんな次元じゃない。



「確かに、里に戻ってきた直後はこんなに…」

「………」



その問いに答えたくなかった俺はあくまで聞こえなかったかのように無視を決めた。
また無意識に首元の傷に触れていた。
あの日から…
総隊長に就任したのを境に様子が変わった気がする。

…そもそも、どうしてあいつは総隊長の座を望んだのだろうか。
暗部のトップに立って、何がしたかった?

三代目の意志を継いで、木ノ葉を守る為?
それとも、木ノ葉を滅ぼす為?



生憎、俺にはわからなかった。





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