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「なんでオレばっか、またこいつと…」



怖いので控え目にナルトを睨みながらブツブツ呟くキバ。
ナルトとはもう暫く一緒に組むことはないと安心して喜んでいた分、落胆も大きいんだろうと遠くからシカマルが同情的な眼差しで観察する。
今回は名前とカカシ先生がいるから前程好き勝手に暴れはしないだろうが、こいつがずっと大人しくしてるとはどうも思えない。



「…?」



重い足取りで進むうち、すれ違った知らない女達がこっちをチラチラ見ながらこそこそ何か話している。
少し苛つきつつ視線を辿れば名前だった。
(…ああ、そういや)
シカマルが重要なことに気が付いたと同時に、キバも弾かれたように名前へ目をやる。



「おい名前!」

「?」

「あの変な噂はなんだよ!」

「あんたは一々声がデカいのよ!!」

「ぐへっ…!!」



サクラの怪力に殴られる。
キバの言葉が聞こえたんだろう、その二人はそそくさと逃げて行った。



「なんで殴んだよ!?」

「こういう噂は騒ぎ立てると逆効果なの!静かにやり過ごした方が…」

「んな事しなくても一人ずつ絞めてやればいいだろーが!」

「だから逆効果だって言ってんの!!」



再びサクラに殴られる。
静かにやり過ごすなんて器用なマネ、キバには無理がある気がするが…今回ばかりはサクラが正論。
張本人である名前はといえば、完全に不貞腐れたキバを見て呑気に笑っていやがる。



「確かに。一人ずつ絞めていくのもいいかもな」

「何笑ってんだよ…!お前、自分が何て言われてるか知ってんのか?」

「―――“尻軽女”だろ」

「!」



何の躊躇いも無くそう言った名前。
挙句の果てには「意外と事実だったりして」なんて笑ってやがる。
改めてこいつの図太さを痛感する。



「気にすんなって。暫く経てば治まる」

「ったく、呑気な奴だな。だいたい誰があんな気の悪い話流してんだよ」



尻軽女に始まり、性同一性障害だとか、カカシ先生に身体で物言わしてコネで上忍に昇格したとか…正直質が悪い。
誰かが故意に流したとしか考えられねぇが、一体誰が?
終始平然としていた名前が一瞬困った表情を浮かべてカカシ先生を見上げる。



「お前も巻き込まれたな、カカシ」

「…全くお前は、なんで菊璃に目付けられるかなあ…」



背を丸めたカカシ先生が深々と溜息を吐く。
菊璃?誰だそれ。



「き、菊璃さんって、あの菊璃さん?」

「おいおいサクラ、お前知ってんのか」

「木ノ葉一の美女クノイチで、色任務のプロよ!」



サクラが若干興奮した様子で答える。
アカデミーのクノイチ授業で一度見たことがあるらしい。



「でも何で菊璃さんが…?」

「時之祭っていう、由緒ある大名達の祭典に同行するよう菊璃に頼まれて…断ったらこうなった―――ってとこだよね?」



カカシ先生が名前を横目で見やると、面倒臭そうに名前が小さく頷いた。
成程、原因はハッキリしてんだな。
それなら確かに気にしても仕方がないか。



「なんで断ったのよ!?そんな凄い役目、私なら絶対行くのに…ッ!!」

「す、すごいね。時之祭に誘われるなんて」



意気込むサクラとヒナタ。
オレ達にはよく分からねぇが、クノイチにとったら随分貴重な機会らしい。



「俺…、大名とか皇室とか、あんまり好きじゃねぇんだ」



対照的に名前は冷めた様子でそう言った。



「なんで!?お姫様とか皇子様とか…ああいう雲の上の人達には誰もが憧れるものよ!?」

「身に着けてるものとかも全部一流で…豪華で…羨ましいよね…」

「教養とかも高いでしょ?琴とか舞踊とかクノイチよりもできちゃうらしいし!」



きゃいきゃいと女子トークを始めた3人。
女というのは、ああいう煌びやかな世界が好きな生き物だ。
うんともすんとも言わず、会話に入ろうとしない名前にいのが絡んだ。



「時之祭行ってきなよ!それでもし大名家か皇室の友達ができたらラッキーじゃない!」

「バカねーいの。時之祭に集まる貴族っていったら、私たちが普段護衛してる小国の大名とは訳が違うのよ!帝とか有力な大名とか…一流処が集まるの!忍の私達とは住む世界が違うんだから」

「でも、名前だって木ノ葉のクノイチ代表で行くのよ!?コネを掴むチャンスだって!」

「名前ちゃんなら…貴族の人達とも仲良くなれそう…」

「行きなよー!断るのもったいないってー!」



3人が訴えかけるが、「行かねぇっていったら行かねぇの」という一言で圧制されてしまう。
この頑固者が!と3人の恨めしそうな視線が突き刺さるが、名前はふと小さく笑って彼女達へ目を向ける。



「俺は皇族や大名よりも…忍が好きだ」



そんな爽やかな笑顔で言われると何も反論できず、うっと言葉を呑む。



「だいたい、あの世界には金と権力にしか目が無いバカばっかりだ」

「…」

「毎日命を掛けて里を守ってる忍が頭を下げる価値なんかねぇよ」

「まあ、それは…」

「権力の差があるから仕方ないわよ」

「だから嫌なんだ。時之祭なんて…わざわざバカの前にこちらから媚びに出向くようなもんだ」




国を治めるのは大名。
それと並んで五大国には皇帝が存在する。
それらの統治者の下に一般人がいて、彼等を守る忍がいる。
いわば忍の地位なんて何よりも低く、他人の命を守れど、忍の命が優先されることはない。

そんな忍が大名や皇族に頭を下げるのは当然のことなのだが、名前はこの体制が気に入らないようで
というかそもそも大名や皇族が嫌いなようで、「忍が好きだ」と語ったときの笑顔はどこへ消えたのか、
今や苦虫を噛み潰した様なしかめっ面をしている。



「分かったか。俺は絶対行かないから」

「「…ハイ」」



有無を言わさぬ名前の気迫にサクラ、いの、ヒナタは観念して頷いた。
お陰でその話題はすっかり終了し、今や菊璃について話し込んでいる。



「…………。」



名前は誰にも気づかれぬように小さな溜息を吐く。

時之祭―――

ここに参加できない理由は、なにも名前が大名が嫌いだからなんて漠然としたものではない。

時之祭には火、水、風、雷、土の五大国の大名がすべて揃って参加する。年に一度の最大の祭典。
夷坐浪というのは巫女の頂点に立つ者―――つまり、水の国だけではなく、他の大国の大名たちにも夷坐浪を崇める者は数多くいる。
3歳から7歳までの5年間は夷坐浪として飾り立て祀られていた名前が、再び彼らの前に姿を呈せば、夷坐浪だと気づく者も少なからずいるだろう。
たとえ名前が彼等を知らなくとも、彼等は名前を知っている。
“人の上に立つ者”にはそういう不便が付き纏う。



(…雲の上の人達には誰もが憧れる…か)



憧れなんて、目の前にしてしまえば案外大したことがないもんだ。
「憧れ」「体裁」「プライド」…そんなものに縋る奴等よりも、等身大で生きているこいつ等の方がずっと美しくて強かに思える。

俺はやっぱり忍が好きだな、と名前は一人思った。




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