左様ならの末日 (2/2)
彼がいなくなってから気付いたのだけれど、私の周りには誰もいなかった。私の世界は花宮君で回っていたから仕方がないと思ったし、別に悲しいとも何とも思わなかった。私が悲しいのは、花宮君がいないから。この涙を止められるのは花宮君だけなんだよ、お願い戻ってきて――――、と、さめざめと泣くのは一ヵ月でやめた。
泣いていても、彼は戻って来ないだろう。きっと一生。
左様ならば、こっちから追い掛けて、必ず見つけ出してやる。そもそも、この恋はそうやって始まったんだ。
私にだって、足りないけれど頭がついているんだから、考えろ考えろ考えろ――――。
ありとあらゆる手段を行使し、持ち前のしつこさと諦めの悪さのおかげで、去ってから二回目の秋がやって来た頃、私はようやく彼の居場所を突き止めることができた。
「また会えたね!」
大安吉日快晴、満面の笑顔で彼の前に立つ私。不愉快そうに顔を歪める彼。出会ったばっかりの頃と同じ状況。
「……どちら様ですか?」
「えーそれは花宮君が一番知ってるんじゃない?」
「知らないから帰れ」
「はいそうですかって帰るわけがないことも知ってるでしょ?」
「……どうしてここがわかった」
「花宮君が好きだから」
「答えになってねえぞこのバカ」
「だって、それが答えだもん」
「……俺は嫌いだ」
「じゃあ私の目を見てそう言ってよ」
そう言うと無視して私に背中を向ける。ねえ、花宮君って自分が思っているより本当はわかりやすいんだよ?
「私は花宮君さえいればそれでいいの。周りに何言われようが、友達がいなくなろうが、そんなのどうでもいい」
人並みの幸せなんていらない。私は、君の隣にいられればそれだけで世界一幸せだから。
「私はさようならって言われただけ。そんなんじゃ、納得できない。別れてほしければ、ちゃんと私の目を見て嫌いって言って」
ねえ、私、花宮君がいないと生きていけないの。君がいない世界なんて何の意味も成さないの。
「……バァカ」
こっちを向いた花宮君が、私を抱き締めて、低く吐き捨てた。
「自分からマトモな人生捨てて本当にバカな女だな。一生、俺の隣で後悔してろバァカ!ぜってー幸せになんかしてやらねえ」
ちょうど人肌が温かく感じる秋の末日、私は、蜘蛛を捕まえた。
【お借りしたお題】
フリーワンライ企画 (Twitterアカウント:@freedim_1write) 様より
左様ならの末日/「また会えたね」
141101 初出
150305 転載