時を越えてまた


(名前ちゃんは魔界の住人。天界・魔界編終了直後のお話。捏造あり。)







ぽつりと紡いだ言葉を貴方は受け取るだろうか。
禁断の時の中で、貴方を想ったこの気持ちを。



「…セイン」


永きにわたり敵対してきた天界の者を呼ぶ。
想い人は天界へと通じる扉に向かおうとしていた。
蠍のような赤い三つ編みを揺らしながら、セインは振り返った。
その瞳には当初のような憎しみを湛えた光は無く、ただ穏やかな碧色がある。


「名前…」

「久しぶりね、セイン」


そう、私たちは初対面ではなかった。
私とセインは天界と魔界の狭間の空間で邂逅したことがある。
それは天界と魔界の者たちにとって異例なことで、禁忌であった。
狭間の空間は、天界と魔界の力の均衡が崩れたときに生じる、云わば「歪み」のようなもの。

偶然、その空間で彼に出逢い、好きになってしまったのだ。
不安定な空間で私たちは何度も愛を紡いだ。それが禁忌だということを知っていたのに、嫌いにはなれなかった。
天界の者は酷い奴等で憎むべき相手だと教えられて育ってきた私にとって、セインはそれを根底から覆すきっかけになった。

そして、その「歪み」が消失してしまった日から会うことのできなかった愛しの相手に、こうやって逢うことができた。
二力の均衡が保たれて「歪み」は急に消えてしまった。そして今日、久方ぶりの再会。
敵だということを分かっていたからこそ、今の今まで触れ合わずにいた。けれど、ダークエンジェルとなって共闘。
また別れると分かっているのに、この気持ちは抑えられない。


「元気にしていたようだな…」

「ええ、貴方のことを考えていたら、いつの間にか永い時が過ぎてしまったわ」


にこり、と微笑むとセインは優しく私の頭を撫でた。
一瞬女の子かと見間違うほど美しい顔立ちをしている。
…本当は最初に会った時、女の子と思っていたのだけれど。いまだにそれはセインに秘密にしている。


「嗚呼、私も名前のことばかり考えていたよ…また会えて嬉しい」

「本当に?こういうのを『両想い』って言うのかしらね」

「人間風に言えばそうかもしれないな」


人間風、なんて言い方も変だけれど。
天界にも魔界にも、この思いを表す言葉は存在しないのだから仕方が無い。
恋愛観など、それほど重視されない二つの世界では『両想い』という概念は考えられもしない。
セインはこちらに歩み寄ると、そっと私の身体を抱き寄せた。温かくて柔らかなぬくもりに包まれる。


「セイン、愛してるわ」

「私も名前を心の底から愛しているよ」


セインの身体に回した腕に力を入れる。私を包むぬくもりも強くなった。
こうしていられるのもあと僅かの時間しかない。
このままお互いの世界への扉をくぐり抜ければ、もう二度と逢うことは無いだろう。
もしも「歪み」が生まれたとしても、それがいつになるかは分からない。


「……どんなに離れていても、貴方を想っているから」

「いつか君に逢いに行こう、それまでしばしの別れだ」


頬を熱いものが伝った。これは…『ナミダ』?
私は泣いているというの?分からない、泣いたことなど初めてだった。
胸の奥が苦しくて、何かがせり上がってくるような感覚に襲われる。
セインは私の涙をそっと指で掬い取った。


「必ず迎えに行くよ、時を越えてまた逢おう」

「待ってる、ずっとずっと待ってるから……」


私たちはそっと唇を重ねた。これが人間の『愛情表現』ということを知っていたから。
少し塩辛い初めての口付けに私は酔いしれそうになる。
愛を確かめ合うように、永遠とも思えるような時間が過ぎるまで口付けた。
唇を離すと、その余韻に浸りながら私とセインは笑いあった。


「さようなら、また逢いましょう」



時を越えてまた


(また逢う時まで、想いをそのままに)



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久々の更新になります…すいません。
色々と構想を練っていたら時間が過ぎてました。

今回はキリリクで莉紅様のリクエストになります!
「悲恋(悲しい系)でキャラは誰でも」ということなので、あまり無さそうなセイン夢です。

セリフ少なめで捏造ありましたが大丈夫だったでしょうか…?
異種間恋愛っていいと思うんですよね…!切なくて好きですね。
セインは意外と書きやすかったです。

莉紅様、リクエストありがとうございました!
もしもご不満がございましたら何なりとおっしゃってくださいね〜


果実




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