革命を背負った背中


「ただいま」

「お帰りなさい、ヒロト兄さん!」


仕事を終えた俺が帰宅すると迎え入れてくれる子供たち。
吉良財閥の社長と言う激務を乗り越えた俺にとっては何よりも嬉しい。
俺がこのお日さま園で過ごしていた時も、父さんの帰りを待ってみんなで楽しみにしてたっけ…
とは言っても、父さんは忙しくてあまり来てはくれなかったけれど。父さんが来ない間は皆どことなく悲しそうだったし。
今のお日さま園の子供たちにはそんな思いをさせないように、なるべく帰ってくるようにしている。

自室に戻ってからスーツを脱いでラフなスタイルへと着替える。うん、やっぱりスーツは居心地が悪いな。
そんなことを考えながらメールのチェックでもしようかと思ったとき、玄関のドアが開く音がした。誰かが帰宅したらしい。
部屋から出てみるとそこにいたのは狩屋だった。
雷門中のジャージも狩屋自身も泥と汗にまみれて汚れている。ああ、部活の練習してたのか……


「お帰り、狩屋」

「あ、ただいまヒロトさん」


素っ気無く言う狩屋はちらりとだけこっちを見るとそのまま風呂場へと駆けていった。まぁ、風呂に入りたくなるのも当然か。
玄関に脱ぎ捨てられたスパイクは使い込まれているのが良く分かる。でも、少しよれてきたんじゃないだろうか?
今度新しいのを買ってやろう、なんて考えながら自分の部屋へと戻る。


「……って、狩屋の奴着替え持って行って無いな」


帰ってきたなり風呂場に飛び込んで行ったんだ、持って行ってないだろう。
そう思った俺は二階の狩屋の部屋へと向かう。本人の許可は取ってないけど…まぁ、入っても大丈夫だろう。
室内に入ると思ったよりも片付けられていた。俺の想像ではユニフォームやら漫画やらが散らばってると思ったんだけど。
あ、でも壁に人気女性アナウンサーのポスターが貼ってある…確か狩屋がジュンジュンって呼んでたっけ。ああ見えて意外とミーハーなんだな。


「……大きくなったんだなぁ」


タンスの中を漁って適当なシャツを取り出して広げてみると思っていたよりもサイズが大きかった。
お日さま園に来た頃の狩屋はとっつくことができないほど、他人と関わろうとしていなかった。一人でサッカーボールを蹴っている…そんなイメージだ。
けれど、成長するごとに周りにも慣れてきて、今じゃあのひねくれた性格だ。それでも、雷門中に入ったことで人に迷惑をかけることは減ってきたように思う。


「…そう言えば、そうか」


ふと壁にかけられたカレンダーを見ると、明日の日付に大きく赤丸がつけてある。
そうだ、明日はホーリーロードの決勝戦だ…仕事で忙しくてそれどころじゃなかったなぁ。
だから狩屋もこんな遅い時間まで練習をしていたのだろう。明日の試合でサッカーの未来が決まるのだから当然か。
幸いにも明日は事前に有給を取っているから応援には行けそうだ。

俺は取り出した着替えを持って風呂場に向かい、それを脱衣かごの中に入れてやる。
浴室の中の狩屋に「着替え置いておくよ」と声をかければ間の抜けた声で返事があった。
風呂から出てきたら一緒にアイスでも食べようかな…。俺は狩屋の好きなアイスの味を思い出しながら風呂場の扉を閉じた。



遂にきたホーリーロード決勝戦当日。
お日さま園の皆も雷門を応援する為の準備にてんやわんやだ。横断幕にメガホン、レプリカユニフォーム…どこからかき集めてきたんだこんなの。
当の狩屋は準備を整え終わっていつでも出発できるようにしている。周りには狩屋より小さい子供たちが群がって「がんばってね」なんて声をかけていた。

そんな喧騒を避けるように狩屋が席を立つと、俺はその後をそっとついていく。
なんだかんだ言ってプレッシャーに弱い狩屋のことだ。きっと緊張しているんだと思う。
思ったとおり、一人になった途端に狩屋は落胆したように廊下で肩を落とした。


「狩屋」

「ヒロトさん……」


少し驚いたような狩屋の顔はまだ幼さに溢れている。それも当然だ、まだ中学一年生なのだから。
よくよく考えれば俺が宇宙人を名乗っていた年齢より年下なのか…何とも不思議な感覚だ。
俺は緊張しきった狩屋をそっと抱き締めて、あやすように頭を撫でてやる。狩屋の身体がびくりと跳ねて動揺しているのがよく分かった。


「は、ちょっ…ヒロトさん……!?」

「大丈夫、俺がついてるからそんなに緊張しないで」


優しく声をかけてやれば、狩屋は少し落ち着いて俺の腕の中でじっとする。
こんな風に抱き締めるだなんて初めてだ。でも、人は誰かと抱き締めあうとリラックスができるそうだから別に構わないだろう。
相手の背中をぽふぽふ、と優しく叩いて相手の顔を覗き込む。少し眉を下げて不安そうな顔をしている姿が可愛い。
その不安を取り払うように相手の額に口付けを落とせば、狩屋の頬が赤く染まった。やっぱり純情なんだなぁ…って、普通はこうなるものか。
相手の耳元で「マサキ」と囁くと、耳まで赤くなってしまった。何故だか名前で呼ばれるのを嫌がっているのだけれど、こんなときくらい許して欲しい。


「頑張っておいで」

「っ……はい…!」


相手の身体をゆっくりと離して微笑みかければ、それに応えるように狩屋も柔らかな笑みを返してくれた。
ようやくいつもの自信を取り戻してくれたみたいだ、よかったよかった。
俺にお辞儀をしてから皆のところへと戻っていく狩屋の背中は、また少し大きくなっていた。



革命を背負った背中


(きっと、やれるさ)



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企画サイト「オレとあなたの身長差」様に提出させていただきました。

大人のヒロトならではのマサキへのエールというイメージで書きました。
糖度低めのお話ですが、二人の微妙な距離感というか…温かさが伝わればいいな、と思います。
ヒロマサちゃんはほのぼの可愛くてたまらないですね。

素敵サイト様に参加できて光栄です、有難うございました。


果実



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