「ねりあめ?」 「そう、ねりあめっ!」 俺の可愛い可愛い彼女、名前が差し出してきたのは小さなカップに入った緑色の透明な粘着質の物体と割り箸。 彼女のもう片方の手には赤色のそれが入ったカップと割り箸。どうみても駄菓子屋なんかで売っているねりあめだった。 「一緒に食べようよ」なんて楽しそうに笑う名前を見たら受け取らざるを得ないじゃないか。まったくもって名前はあざとい。あざとすぎる…! 「えへへ、リュウくんはメロン味だよ!リュウくんカラーっ」 「名前はイチゴ味か…」 体に悪そうな香料と着色料が含有されているねりあめは、もちろん無果汁で果実の味などするはずも無い。なんと言うか…食欲を奪われる色だ。 どぎついケミカルグリーンをまじまじと見つめれば、隣の名前は割り箸を使ってねりあめを練り始めていた。 待ち遠しそうな顔をしてねりあめを練っている姿がなんとも愛らしい。ねりあめよりも名前が食べたい。花より団子とはいうけれど、この場合はねりあめより名前だよね。 しかしそこは理性を保って一息つく。この程度で興奮しているようじゃ俺もまだまだだな…なんて自虐じみたことを考えながら、ぺろんとカップのふたを剥がす。 そのまま半分に割った割り箸の先っぽをねりあめの中に突っ込んで少し掬い取れば、でろでろとだらしなく伸びて割り箸とカップが繋がった。 その糸を断ち切るように割り箸を上に持ち上げて一回転させれば、だんだんと細くなったねりあめの糸はぷつんと切れた。 そのまま手につけないようにそっとねりあめを練ってみる。 ねりねり。ねりねり。 そう、漫画ならこんな擬音が端に書かれているはずだ。でも、ここは現実世界。そんな音がする訳ない。かすかに目の前の粘着質な物体が空気と攪拌してぺたりぺたりと微妙な音を立てているくらいだ。 割り箸がぐるんぐるんと回って、その先端にくっ付けられた緑色のねりあめは空気を孕んで次第に白っぽくなっていく。空気と共になんとなく艶もついて来たような気がする。 そろそろ食べごろかな、と食べやすい量に調節したねりあめを口に運んでみる。 なるほど甘い。馬鹿みたいに甘い。当然だ、原料は水あめなのだから。 口の中に執拗に引っ付いてくるそれは、唾液と咥内の熱でだんだん形を失って溶け消えてしまった。 そこまで美味しいものだとは思わないけれど、名前がとても幸せそうに食べているからそれでいい。と言うか、名前もうねりあめ半分無くなってるじゃないか。流石に早すぎるって。 「リュウくん、はい!」 キラキラ目を輝かせながらイチゴ味のねりあめがついた割り箸を一本差し出してくる名前。俺と半分こ、だと…これだから鈍感は困る。無意識にこんなことをやってのけるなんてどういう思考回路してるんだ名前は。何も考えていないだけか。 俺にイチゴ味のねりあめを渡して空っぽの彼女の右手に、俺が食べて半分残ったメロン味のねりあめを押し付ける。 メロン味も食べられることになった名前は声を荒げて喜んだ。犬なら尻尾を振りすぎてもげているんじゃないか…? 「ん〜っ、メロンも美味しい!リュウ君ありがとー!」 「礼には及ばないよ…」 あまりにも名前が可愛いものだから思わず頬が熱くなってしまった。それを紛らわせるようにイチゴ味のねりあめを半ば無理やり口に押し込む。 メロン味とは違う香り、でも甘さはまったく変わらない。これに騙されるほど人間の舌というのは愚かしいものなのか…… よくよく考えたら名前と間接キスだ。割り箸、ねりあめ、間接キス。なんとも甘酸っぱい。青春かな青春かな。 そんなことにも気づかない名前は口も手もべたべたにしてねりあめを完食していた。よく全部食えるなあんなもの。 「名前、べたべたになってるよ」 「んん…リュウくん、ぺろぺろやーだっ」 苦笑しながら彼女の手やら顔やらについた赤と緑のねりあめを猫のように舐めてやれば、名前は擽ったそうにしてはにかむ。あ、この顔天使だ。 そのまま軽いリップ音を立てて唇にキスしてやる。ねりあめの無機質な甘みと名前の唇の甘み。そしたら不器用で愛くるしいキスを返してくれた。駄目だよ、これは反則だって名前…! カップと割り箸を置いて抱き締めてしまう。これに応えて抱き締め返してくる時点で、名前は俺を悶え殺すつもりなんだと思う。 ねりあめ (リュウくんもべたべただよ?) (名前がねりあめ押し付けてくるからだよ…) -------------------------------- 今回は春奈様リクエストのリュウジ甘夢です。 甘いのか、これ…いや甘いのはねりあめなんですけどね。 私自身が最近ねりあめを食べるのにはまっているので、ねりあめのお話です。 いろんな種類がありますがソーダ系のねりあめが一番美味しいと思います。何より水色めちゃくちゃ綺麗。 一個60円程度でお手軽に買えるのも好きです。駄菓子様万歳!! それより何より、リュウジじゃなくなりました。リュウジってこんな口調だっけ… 春奈様、苦情がございましたら何なりとお申し付けください。偽リュウジになってしまって申し訳ないです…… お持ち帰りは春奈様のみでお願いします。 |