「何、これ……っ!」 「一体何があったんだよ!」 FFを優勝した雷門中の耳に飛び込んできたニュースはあまりにも突然だった。 各地の中学校が何者かによって破壊されている、と言うのだ。しかもサッカーによって。 それを聞いた私たちは急いで雷門中へと戻った。しかし、そこにあったのは惨状でしか無かった。 かつての伝説の雷門イレブンがぼろぼろになって地に伏していたのだ。それもユニフォーム姿で。 もうもうと立ち込める土煙が晴れるとそこにいたのは奇妙な姿をした11人の人影。まるで宇宙人…と言うよりも、宇宙人にしか見えない。 「誰!?何でこんなことを……!」 相手に詰め寄るように私は声を荒げる。見れば見るほどこいつらは奇妙だ。 茶色っぽいSF映画に出てくるような服を着ているし、肌の色は黄緑に水色、ピンクとありえない色をしている。中心に立っている抹茶のソフトクリームのような髪型をした少年の右腕には、キャプテンマークのようなものが見えた。 足元には黒いサッカーボール…まさかどこかのサッカーチームだとでも言うの? 「我々は遠き星エイリアよりこの地に舞い降りた『星の使徒』である」 「星の…使徒……?」 円堂が声を戦慄かせ乍ら呟くとリーダー格と思われる少年が話し続ける。 『エイリア学園』と名乗る彼らは宇宙人で、地球を滅ぼしに来たらしい。そして、人間と地球の勝負法の一つであるサッカーで勝負したいと言うのだ。 なんと言うか…無茶苦茶としか言いようが無い。そんなSFまがいのことを信じろと言うの……? 「我々はジェミニストーム。そして、我が名はレーゼ」 レーゼは足元にあった黒いサッカーボールをふわりと浮かせて、そのまま雷門中の校舎に蹴りこんだ。 途端、激しい崩壊音がして瓦礫と化していく校舎。跡形も無く崩れ去った校舎に、私たちが学校生活をおくっていたと言う影は見えない。 雷門側の全員が息を呑んで、レーゼを強く睨みつけた。こんなこと、あっていいはずが無い……! そして、ジェミニストームはサッカーボールから放たれた閃光と共に消えていった。 「許せない…校舎をあんな風にするなんて……っ!」 「他の学校もジェミニストームにサッカーで勝負を挑まれて、次々と校舎を破壊されてるみたいよ…」 風丸が歯軋りしながらら拳を握る横で、夏未は悔しそうな顔をして地面を見つめていた。夏未にとっては自分の親が建てた大切な学校だ。悔しいのは当然のことだろう。 みんなの思い出が詰まったサッカー部の部室までが壊されてしまった…こんなこと、あっていいはずが無いのに。 私は自分の頬を抓ってみた。ちりりと痛みが走る。やっぱり夢ではないみたいだ。 「この儘だと日本全国の中学校が破壊し尽くされ…いずれはあの宇宙人に世界征服されてしまうかもしれない」 「そんなの、絶対にさせない…!俺たちの手で、あの宇宙人を倒すんだ!」 腕を組み乍ら物憂げに有人が呟くと、いきり立った円堂が声を荒げる。 それに賛同するように周りからも賛成の声が聞こえた。壁山や栗松たち一年生は少し不安そうにしているものの、円堂の意思に異議は無いようだ。 私は横で怯えたような目をしている秋と春奈ちゃんの肩をそっと抱き寄せた。 「大丈夫、今の雷門はFFに優勝した実力を持っているのよ。彼らを信じないと」 「名前ちゃん……」 「そう、ですよね…この儘宇宙人に征服されるなんてごめんです!」 うん、二人ともいつもの元気そうな顔に戻ってきたみたい。よかったよかった… 視線を巡らせると皆よりも少し後ろに真尋が立っていた。その表情に思わず背筋がぞくりとする。 真尋は笑っていた。この状況を楽しんでいるかのように形のいい唇を弓なりにして楽しそうに笑っていたのだ。 どうして、この状況下で笑えるのか理解ができなくて私は唖然としてしまう。 その時、私の傍に真尋が近づいてきてそっと耳打ちをした。 「名前ちゃん、あとで鉄塔広場に来て?一人で、ね」 「は……?」 私が呆気に取られているのも束の間、彼女はいつもと変わらない天使のような微笑みを私に向けて円堂達の元へ駆けていった。 鉄塔広場に、一人で…?意図が読めない上にさっきの笑い方も気になる…… 冷や汗が流れて僅かに濡れた頬に手を当てて、黒ずんだ雲に覆われた空を仰いだ。 「鉄塔広場だったらここにいるはず……」 雷門の皆と解散した後、私は一人で鉄塔広場に来ていた。 日も暮れかけた鉄塔広場には私以外誰もいない。いや、真尋はいてくれないといけないんだけど…… きょろきょろと辺りを見回していると後ろから聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえた。振り向くとそこには真尋がいた。 「来てくれたんだね、名前ちゃん」 「呼び出したのは貴方でしょう…私に何の用よ!」 相変わらずの笑みを浮かべた彼女はゆっくりと私の方に歩み寄ってくる。 よく見るといつもの真尋と様子が違う。彼女が好んで着ているワンピースとは違う服…それも男物の服を着ている。 それに何でだろう…真尋の姿がぼやけてよく分からない。輪郭が定まっていないと言うか、煙みたいにゆらゆらと揺れている。 「な、に……?」 雲間から夕日の紅い光が差し込んで真尋の顔を照らす。その顔は真尋のものではなかった。 鮮やかな林檎色の髪の毛は肩につくかつかないか程度の長さで、ふわふわとはしていない、まっすぐで落ち着いている。肌は青白くて血色があまりよくない。くっきりとした目鼻立ちをしているその顔つきは少年そのものだ。エメラルドのような瞳は、夕日でちらついて怪しい光輝を放っていた。 その姿に私は見覚えがあった。忘れはしない、幼い頃に親しんだ少年。 「ヒロ、ト……?」 「久しぶりだね、名前」 懐かしき君 (その姿が妙に眩しくて) ----------------------------------- ということで15話です…! 新生活が忙しすぎてまったく書く暇がありませんでした… 更新できなくてすみません、謝るのもテンプレになってきました。 さて、今回から2期突入でございます! やっとヒロト出せました…万歳!! 真尋ちゃんの正体はヒロトでした、気づいていらっしゃる方も多いとは思いますが。 「ときやまひろ」は「きやまひろと」を一文字後ろにずらしただけです。 容姿描写もどことなく似せています。赤みがかった髪に暗緑の瞳とかです。 ヒロトがこんなふわふわ少女を演じていたかと思うと、腹筋がロストエンジェルしてしまいますね。 次のお話はヒロトと名前ちゃんの過去についてです。 なるべく早く書けたらいいな…暇な時間とミキシマックスしたいです、切実に。 果実 |