一つの終着点


鬼道有人という天才ゲームメーカーを仲間に加えた雷門中は、戦国伊賀島中や千羽山中、木戸川清修中といった強豪校を破り、見事フットボールフロンティア決勝へと駒を進めた。
相手はあの帝国学園に勝った世宇子中。気を緩めることは出来ない。
秋から聞いた話によると、私がいない最中に世宇子中のキャプテンが雷門イレブンの前に姿を現したらしい。
試合前にわざわざご挨拶とはいい度胸だと思う。そのキャプテンの呼称は「アフロディ」だそうだ。まるでギリシャ神話の美の女神のような名前だ。

そして今、雷門イレブンと私を含めたマネージャーたちは、空に浮かんだ世宇子スタジアムにいた。
荘厳な見た目と最先端の技術のせいで、スタジアムが圧倒的な強さを誇張しているように見える。
雷門イレブンの冷たい目が鬱陶しくて、私は試合前にもかかわらずスタジアム内を散策し始める。広くて迷子になってしまいそうだけれど、電光掲示板がところどころにあって迷うことはなさそうだ。
ふらふらと歩いてると、後ろから声が聞こえた。


「やぁ、名前じゃないか」

「誰?……て、照美!?」


振り返った先でにこにこと微笑んでいるのは…照美だった。
身に付けているのは古代ギリシャのローブのような白い服で、腰のところを茶色い紐で締めている。肩からは灰色の布を下げて紐の部分に通している。左腕には月桂樹の葉の様な形をした輪をつけていた。
あまり見ないタイプだけれど、これはサッカーのユニフォームだ。その証拠に照美はスパイクを履いている。
彼の表情は初めて会った時とは違い、威厳に溢れていた。


「こ、ここで何してるの…!」

「僕が世宇子中のキャプテンだからだよ、名前」

「照美がキャプテン……っ」

「僕は君たち雷門中には負けない。神に敵うはずがない」


照美が世宇子中のキャプテンだったなんて…彼は私を見ても驚かなかった。つまり、私が雷門中のマネージャーということを知ってて近づいたのだろうか。
そう考えると、奪われたファーストキスのことを思い出して苛々した。こんな奴に奪われた、なんて。
私が鋭い眼光で睨みつけると、照美は鼻で笑いながらユニフォームを翻して去っていった。



そして始まった決勝戦。今までで一番熱気に包まれたスタジアムは超満員。
世宇子サイドを見ると照美を含めた全員が水分補給をしていた。試合前だというのに何を飲んでいるんだろう…?準備万端、ということ?
そんなことを考えていると試合が始まった…が、開始早々、照美が打ったゴッドノウズという技で雷門は失点してしまった。

それを合図にするかのように、リフレクトバスターとディバインアローが雷門ゴールを突き破る。雷門中の攻撃は全く世宇子中には通用しない。
少林、マックス、栗松、染岡、目金…ぼろぼろになった仲間がどんどんと倒れていく。その間、私を除くマネージャー三人が何かを調べるようにスタジアムへの奥へと向かって行った。疑問に思いつつも追求はせず、私と真尋だけが試合を眺めていた。

前半が終わったときには皆疲れ果て雷門は十人になっていた。
部員の少ない雷門中はこれ以上出る選手がいない。何とももどかしいものだ。
誰もが俯いて嘆息の息を漏らしていたとき、マネージャーたちが戻って来て驚くべき報告をした。
何と、世宇子中は体力増強ドリンクを使用していたのだ。
「神のアクア」と呼ばれるそれは試合前に世宇子が飲んでいたものらしく、今までの試合でも使用していたらしい。きっと、そのせいで帝国学園は敗北を喫したのだろう。

それを聞いた円堂は「大好きなサッカーを守る」と憤慨していた。
円堂らしいといえば円堂らしい。寧ろ、円堂はサッカーを中心に世界が廻っているのだから当然だろう。
彼は祖父の愛用していたグローブを装備すると、意気込みを新たに仲間たちと後半のピッチへと歩みを進めて行った。

後半が開始しても激戦は続いていた。
世宇子は先程よりもより濃度の高い神のアクアを飲んでいるらしく、筋肉は隆々と盛り上がり動きにもキレがあった。
しかし、雷門も負けじと食らいつくようにボールを追っていた。だが、世宇子が優勢なのは明らかだ。

照美がゴッドノウズの体制に入る。ここで決められれば雷門の勝利はほぼ不可能になってしまう。
もう駄目かと思った瞬間、円堂は心臓に気を溜めるように構えて左手を掲げた。そこに現れたのは神気を纏った威厳のある"マジン"。
新技マジン・ザ・ハンドでゴールを堅守した円堂はそのままボールを豪炎寺にパスする。
豪炎寺のファイアトルネードを皮切りに、一点、また一点とゴールが決まってついに世宇子に追いついた。
そして、ゴールから飛び出した円堂、一之瀬、土門の必殺技ザ・フェニックスが世宇子のゴールを破って逆転し、試合終了のホイッスルが鳴り響く。

4対3で雷門中の勝利、だった。
誰もが信じられないというような表情をした後、雷門側は嬉しさに飛び上がって勝利を喜んだ。
絶望的な状況から諦めずに勝利をもぎ取った彼らの勇姿に、スタンドの観客たちが盛大な拍手を送る。
今、中学生サッカー史に記録的な伝説が打ち立てられたのだ。




夢心地な私たちはまだ知らなかった。
この後待ち受けている惨劇と絶望、そして新たな敵を。



一つの終着点

(これははじまりに過ぎなかったんだ)


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大変遅くなりましたが14話です。

ついに第一章完結となりました…!
10ヶ月で14話。ここ半年ほどなかなか更新できず、スローペースでしたね……

今回はほぼセリフ無しで説明文中心のお話でした。
公式様と同じ流れ…になっているといいのですが……何分調べながら試合内容を書いたので合っている自信がございません。

いよいよ次回からエイリア編に突入です。
アニメに沿ったお話になる予定ですが、初回からぶっ飛ばしていきたいです(笑)
どのくらいの時間がかかるのか予想できませんがまったりと更新していくので、お付き合いしていただける方は気長にお待ちください。


果実



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