「帝国学園が…負けた……?」 夏未の口から放たれた言葉はあまりにも信じがたいものだった。 あの帝国学園が二度目の敗北。しかも10対0という悲惨な結果に終わったというのだ。 私は何かの間違いかと思い、テレビや新聞で報道された試合結果を何度も見返したが、それは変わるはずもなく帝国学園の負け、という結果だ。 しかも、勝ったのは「世宇子中」という名前すらも聞いたことがない中学校だった。 「帝国学園に勝つなんて…世宇子中ってどんなチームなの……?」 「分からないわ、調べてみたけれど何の情報も出てこないの」 膨大な情報網を持つ夏未ですら調べがつかないのだから、私がどうしたところで何も分からないだろう。 帝国学園のみんなに聞いてみる、というのはあまりにも不躾だと思って気が引けてしまう。 雷門中には負けたものの「無敗の帝国」といわれている彼らを惨敗させたのだ。帝国イレブンの心はずたずたに違いない。 「夏未、私も調べてみようと思う」 「ええ…もう少し情報が無いか私のほうでも探ってみるわ」 私は教室から出ると放課後の廊下を早足で進んだ。イライラと疑問とのせいで自然とそうなってしまったみたいだ。廊下を行き交う生徒たちとぶつかったけれど気にしない。 何処に向かっている…という訳ではないけれど、ずかずかと廊下を突き進むとここにいるはずが無い見慣れた影が見えた。 茶色い特徴的ドレッドヘアに青いゴーグル、そして帝国学園の制服を着込んだ少年は間違いなく有人だった。 「何で有人がこんなところに……」 帝国学園の生徒である有人がこんなところにいるなど、到底考えられないことだ。しかし、現実に雷門中にいる。 私がそっと後を尾けると有人はそのまま理事長室に入っていった。理事長室の木製の扉に聞き耳を立てても何も聞こえなく、中の様子は全く分からない。 一体、有人は何の用があって雷門中に来たのだろう…?その意図がさっぱり分からなくて私は首を傾げた。 十分ほどして、ガチャリと理事長室の扉が開いて有人が出てきた。突然のことで驚いて硬直した私に気付くと、彼は驚いたように口を大きく開けた。 「……名前?こんなところで何をしているんだ」 「そ、それはこっちのセリフよ!ここで何をしているの…!?」 「…雷門中に転入することにしたんだ」 雷門中に転入……!?有人が帝国学園から転入してくるというの…? きょとんとしている私をよそに有人はさらに説明を続ける。 その表情は苦しそうで、辛そうで…怒りを孕んだような複雑な表情だ。見ているこっちまで何だか辛くなってくる。 「知ってのとおり、俺たち帝国学園は世宇子中に惨敗した。俺の仲間は入院しなければならないほどの怪我を負ってしまった…仲間が傷ついていくのを見過ごすしかないほど、世宇子中は強かったんだ。どうしようもない怒りが込み上げてきた。だがしかし、敗北者の俺にはどうすることも出来ない……そんな時だ、豪炎寺修也が俺に『雷門イレブンの一員として仲間の敵を討て』と言ってきたんだ」 「豪炎寺が…?」 豪炎寺といえば、私を忌み嫌ってくる奴らの一員だ。前にあいつに蹴られた腹には青痣が残っている。 そんなことを豪炎寺が言うようには信じられない。けれど、私はそこで思い直した。 彼は純粋にサッカーを愛する、誰よりも情熱的な男だ。勿論私にしている行為は勘違いのせい…ということにしておこう。 「俺は…俺はあいつらの敵を討ってやりたかった。仲間が傷つくのを止めることができなかった俺自身に対する戒めの為にもな……雷門理事長は快く転入を了承してくれた。しかし、雷門イレブンが俺を受け入れてくれるのかが心配なんだ。世宇子中に勝ちたい、という俺の気持ちに同調してくれるかどうか……」 「大丈夫だよ。きっとみんなは有人を受け入れてくれる。だって、サッカーがしたいんでしょ?サッカーがしたい!っていう気持ちがあれば、敵だって味方になるんだよ」 少し俯いた有人に私はにっこりと微笑みかけた。 私自身、雷門イレブンを完璧に信用しているわけではない。けれど、それとこれとは話が別だ。 純粋にサッカーを愛していれば、雷門の皆は歓迎してくれる。円堂だけじゃない、雷門イレブンはサッカーが大好きな人ばかりだからだ。 サッカーに対する熱い思いを拒否するような真似は決してしないだろう。 「ふっ…そうだな、円堂守はそういう奴だ」 「そうそう、有人が雷門イレブンの一員としてプレーするの楽しみにしてるからね?」 私がそういうと、有人は「ああ」と頷いてあまり浮かべることの無い柔らかい表情になった。 彼のゴーグルの奥の瑪瑙の双眸が優しく煌いた気がした。 突然の来訪者 (私は何を期待しているんだろう) ----------------------------------- 新年一発目の更新になります、毎度毎度遅くてすいません… ここ半年ほど本当に忙しくてPCに触る暇が無いです、もう少ししたら更新ペース上がると思います。 13話は二度目の鬼道さんと名前ちゃんの回でした。 この二人出すとなんでこんなにほのぼのするんだろう…!作者の私ですら分からない謎です(笑) このエピソード入れないと、鬼道さんがいきなり出てきても変かな?と思って付け足しました。 次こそは決勝大会書きます。決勝大会は一話で終わらせてしまおうかと思っています。 そのあとに照美とのお話&エイリア編へのつなぎでもう一話。 その次からいよいよエイリア編になると思います…!やった!! さくさくと書き進めて更新率上げられるように頑張りますので、応援のほどをよろしくお願いします。 果実 |