震える足と視線


帝国学園の中を走り抜けて私が向かった先は、先日私と影山が話した部屋。
道はうろ覚えではあるが頭の片隅にあったため、すぐにその場所に着くことが出来た。
扉の前で立ち止まり一度大きく深呼吸をする。
走ってきたのともやもやとした感情とで熱くなった体を、肺に滲みこんで来た冷気が鎮静させた。
私は意を決するようにその部屋へと入った。


「影山!!」


中に入るとそこにいたのは影山に相対する有人と円堂、帝国イレブンの面々。
急いで来たつもりではいたが、円堂達に先を越されてしまっていたようだ。
後から入ってきた私を色々な視線が見ている。驚きと怒りと企みと、どれもあまり嬉しくない視線だ。


「名前……!」


円堂に睨みつけられるけれど、そんなものは気にしない。それよりも他に重要なことがあるからだ。
私は真っ先に影山の元につかつかと歩み寄って奴を見据えた。
サングラスに隠された瞳は、私が呼び出されたときと同じで何を考えているのか分からない。
それでも、深い闇を孕んでいることは間違いないだろう。


「貴方はどれだけ卑怯なことをすれば気が済むの!?雷門イレブンを潰そうとしてまで得る勝利に価値なんて無いでしょう!そんなことをする必要性なんてどこにあると言うの!!」

「…お前が言えたことではないだろう、苗字名前。貴様があの時私の要求を呑まなかったから私自身の手で潰そうとしたまでだ」

「なっ……!」


影山が馬鹿にするような笑みを浮かべながら言い放った言葉は、私の心に深々と突き刺さる。
やっぱりそうだったんだ。私が影山の要求を断ったからこの事態は起こってしまった。
結局、私は雷門イレブンを傷つけようとしてしまった。守ろうと思っていたのに。
私は、なんてことを。


「どういうことだ、名前…!」

「総帥に何を言われた!!」


円堂と有人の言葉も私の耳には正確に届いていない。
呼吸が速くなり、心臓が跳ね、体中から力がふっと抜けていく。立つことすらままならなくなって、私はその場に座り込んでしまった。
体に力を入れようにも、そちらに心が集中しない。


「ふん、お前たちには関係の無い話だ」


吐き捨てるように影山が言い放つと同時に、部屋の自動扉が音を立てる。
ゆっくりと顔をそちらに向けると、そこにいたのは鬼瓦刑事と警官、そして作業着の男。
鬼瓦刑事の話によると、影山が作業着の男に鉄骨のボルトを緩めるように命じたらしいのだ。この男性は建設業者らしい。
間接的ではあるけれど、この男性にまで私は迷惑をかけてしまったことになるだろう。
結局私は、誰かを守ることなどできていないのだ。

影山は鬼瓦刑事とともにどこかに行ってしまった。
残されたのは私と有人と円堂、そして帝国イレブン。私はまだ地面に座り込んだままで立ち上がることが出来ていない。
気まずい静寂がこの部屋を支配しているのが私でも分かる。誰もが口を噤んで動こうとしない。
しかし、有人の動きがぴんと張り詰めた空気を打ち壊した。


「立てるか?名前…」


先日帝国学園で会った時と同じように、有人に手を引かれて立ち上がる。
足元のおぼつかない私を優しく受け止めるその様は、鬼道財閥の未来を背負う有人だからこそだろうか。
私を宥めるようにそっと頭を撫でてくれた。何で私子ども扱いされてるんだろう…
しばらくして気分が落ち着いた私は有人から離れると、少し無理をしながら笑いかけた。


「もう大丈夫よ、ありがとう」


そしは今更になって円堂達がいたことに気がついた。は、恥ずかしいっ…
唖然としたように私と有人を見つめる視線、視線、視線。
最近まで私の憎しみの目でしか見ていなかった円堂のこんな顔を見るのも久々だ。
有人はきょとんとしているけれど、すぐに引き締まったいつもの表情に戻ってこう言った。


「試合を続けるぞ!」

「あ、あぁ…」


半ば納得しないように円堂達は頷く。
マントを翻しながらフィールドへと戻って行く有人をについていく彼らを、私はまだ少し震える足で追った。



震える足と視線

(全て、私のせい?)


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2ヶ月ぶりでやっと11話です…!
ようやく書けました、すみません!!

今回はアニメと大体同じような話になりました。
名前ちゃんの弱い一面を見せたかったのですが…伝わったでしょうか?
鬼道と名前ちゃんの仲がじわじわ進行しているような気もしますが、まだ誰とくっつくかは未定です(笑)

恋愛はさせるつもりです、甘い恋愛ではないと思いますが…
これから誰とくっついてもおかしくないような展開なので、まだまだ名前ちゃんの未来は謎に包まれています。
円堂や豪炎寺、はたまた染岡とくっつく…!という可能性も無きにしてあらず、ですね!
でも、エンディングは最初から考えてあるのでそこは変わらないかと思います。

久々の更新になってしまいましたが、次の話はすぐに書きます!
何度目の正直だよって感じですが、次こそは必ず…!
次回は私も大好きなあのキャラクターが出る予定です。



果実





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