宣戦布告


教室に戻ったのは二時間目が始まる頃。
扉にかけた手が汗ばみ震える。
どうして震えているの?もしかして怯えているのかもしれない。
心とは裏腹に体は正直というわけだ。

そんな私を見かねてか、秋が私の手の上に自らのそれを重ねる。
私を安心させようとしているみたい。じっとこちらを見ている。
真剣な顔の秋に答えるように頷き、私は教室へ入った。
本日二度目の視線の集中砲火。その視線の一部は秋にもいっていたけれど。

二時間目は英語のはずなのに、英語教師がいない。
それどころか、何の授業すら始まっていないようだ。
まるで休み時間のようなその空間は冷たく凍りついている。


「木野、名前から離れろ」


ポツリと放たれた守の言葉に秋が困ったような顔をする。
私のことを心配しているのかな…私の傍から離れようとしない。
でも、このままだと秋まで同じ目にあってしまう。


「秋…離れて」

「そ、そんな…!」

「離れて」


秋は唇を噛み締めながら私から離れる。
これで秋のことはもう心配ない…はずだ。少なくとも今は。
すると、守がつかつかとこちらに歩み寄ってくる。


「木野まで傷つけるつもりか?」

「周りからはそう見えるの?まぁ、私はそんなつもりじゃないんだけど…って、信じて貰えるわけないよね」

「誰もお前のことなんて信じるわけ無いだろう?」


嘲笑するように言う風丸を睨みつける。
何て苛々する言い方。でも事実だから言い返せない。味方なんてゼロに等しいのだから。
そして守は私の鳩尾を蹴り上げた。刹那、鈍痛。倒れる私。

女の子にこんなことするなんて信じられないなぁ…
ぼんやりとそんなことを思うけれど、奴らにその概念は無いのだろう。
私はこのクラスの“悪”になったんだ。理不尽という言葉すら通じない。
一方的な暴力だとも思っていないはずだ。

だとしたら…私はこのままでいいの?
為すがままで傷を負い、暴言を浴び、汚れていく。それが今の私の運命。
無実の罪で堕ちていくのなんて、私はまっぴらだ。
なら、私は――――

ふらりと立ち上がり、守を見据える。
憎しみを讃えた彼の瞳も今は恐怖の対象ではない。
私は右手をすっと上げると、思い切り守の左頬を叩いた。
しん、と静まる教室に響く乾いた打音。
一瞬の静寂の後、クラスメイトたちがざわざわと騒ぎ出す。
守は呆気にとられたように左頬を押さえている。


「私は…私は!貴方たちには負けない!!どんなに殴られようと、どんなに罵声を浴びようと、私は貴方たちに屈したりしない!!たとえ…たとえ世界から味方が一人もいなくなったとしても、私は諦めない!!傲慢で理不尽で愚かしい貴方たちを恐れない!貴方たちを信じない!想わない!受け入れない!!」


一息で言うのは流石に辛く、私は息を整える。
肺の中に冷たい空気が満ちて、気持ちが少し落ち着いた。
まるで漫画の主人公のように守の胸に人差し指を突きつける。


「――円堂」


もう、守とは呼ばない。
親密な関係ではなくなったのだから。そう呼ぶ必要が無いのだから。
苗字で呼ぶのも久々でどこか新鮮な感覚だ。


「私は貴方たちに宣戦布告する」



宣戦布告

(貴方たちは私の敵なのだから)


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少し間が空きましたが6話です。

この話の名前ちゃんはどこか冷静ですね…
当初目指していた性格ではありますが。

円堂含めクラスメイトについてですが、捏造です。
公式のままにいくとキャラとの絡みが少なくなってしまうので…
他にも何人かクラスメイトにしようと思ってます。
あとは、モブクラスメイトとかも。

次回はあの人が出ます、多分。
真尋ちゃんも出したいな。


果実



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