保健室に入ると誰もいなかった。 まったく…この学校には保健医すら常駐していないの?こんなこと夏未の前じゃ絶対に言えないけどね。 仕方ないな…自分でどうにかしないと。 パイプベッドに座りYシャツの裾を捲ると、修也に蹴られたところが紫がかって腫れていた。 「うわ…すごい色」 動くたびに痛みの走るそこは皮も擦り剥けてうっすらと血が滲んでいる。 とりあえず消毒しようかな…消毒液って何処にあるんだろう。 がさがさと棚を漁っていると、消毒液やガーゼを見つけた。 さっさと処置をしようとすると保健室の扉が開いた。 「名前、ちゃん……」 「秋…?」 入ってきたのはクラスメイトでマネージャー仲間の秋だった。 瞳を伏せがちにしながらゆっくりと歩いてくる。 もう授業が始まる時間だというのに、どうしてここに来たんだろう。 「…何?私を蔑みに来たの?」 「ち、違うよ…!私は名前ちゃんのことが心配で……」 きっとこの言葉に偽りは無い。 秋は優しい人間だ。人を疑うことを知らない、嘘をつくことも滅多に無い。 それに彼女は保健委員だ。こうやって保健室に付き添うことだってある。 もしかしたら教師に言われて私を探しに来たのかもしれない。 「名前ちゃん…怪我してるの?」 「嗚呼、修也に蹴られた時にね…さすがサッカー部。痛かったなぁ」 「待ってて、私が手当てするから」 秋は消毒液を私の脇腹につけた。結構滲みる。 てきぱきとした手つきでガーゼを当て、患部の腫れた部分に湿布を貼る。 保健委員だからこんな事が出来るのかな…私なら消毒して終わりなのに。 「はい、終わったよ」 「ありがとう、秋…助かったよ」 「どういたしまして」と秋はにこやかに笑って消毒液や残ったガーゼを片付け始めた。 女の私でも惚れ惚れしてしまう。私が男だったらこんなお嫁さんが欲しいところだ。 秋は片付け終えると私の横に座った。ベッドがギシリと音を立てる。 「…でも、私と一緒にいたら秋まで酷い目にあっちゃうよ?」 「そんなの関係ないよっ!私は名前ちゃんを信じてるから…!」 彼女の目がふるりと揺れる。 こんな私を信じてくれるだなんて、秋はお人よしだ。 一緒にいたらどんなことになってしまうのかすら分からないと言うのに。 「そんな風に言ってくれて嬉しいよ…だけど、なるべく私とは一緒にいないようにして?」 「で、でも……」 「お願いだから…約束して」 じっと秋を見据えると、半ば諦めたように頷いてくれた。 まだ私たちのクラスの中の出来事ではあるけど、いつ他のクラスやサッカー部に伝わるか分からない。 それに、私の味方をしようとしてくれる人がいるとは思えない。 “汚れ”を引き受けるのは私だけで十分だ。 「よし、それじゃあ教室戻ろうか」 時間はとっくに一時間目が終わる頃。授業エスケープしちゃったよ。 さっさと教室に戻らないと教師が五月蝿いだろう。 そんなことを考えながら。クラスメイトの待ち受ける教室へと、私と秋は保健室を出た。 信じてくれる人 (一欠けらのぬくもりを感じた) ----------------------------------- 一気に5話も更新いたしました。 秋ちゃんは名前ちゃんを信じています。理解者です。 この調子でマネージャーも味方にしようかどうか悩みますね… 夏未お嬢様が敵だと、学校関連で何でも出来てしまうのでね。 …早くあのキャラを出してしまいたいです。 果実 |