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既に見慣れた外観の、小さな家。岩壁にめり込むように作られたその扉を開けば、あたたかな温度と香ばしい香りに出迎えられる。

「おお、リレイヌ。戻ったのか」

たまたま下から上がってきたアルテスタさんが言う。手すりの陰から顔を覗かせる彼に微笑みをこぼせば、同じくしてタバサさんも登場。「お帰りナサイまセ」と出迎えてくれた。

「お食事の準備ガできテオリまス。スグにお食べ二なりマスカ?」

なんてありがたい申し出だろうか。
薬草入りの籠を手に、私は小さくも微笑んだ。

「わあ、お腹空いているので嬉しいです。アルテスタさんはどうですか?」
「わしも腹ペコだ」
「デハ、ご用意シマすね」

素晴らしい即決具合には、もはや脱帽するしかない。
さっさとキッチンに戻っていくタバサさんを尻目、薬草を棚の中へ。後で薬にする物とそうでない物とを分別してから、保管器の中に保存する。

「そういえば、リレイヌ。先程すごい音が聞こえたが、なんともなかったか?」

食卓に腰掛けながら、アルテスタさんは言った。不安げな彼に「はい」と頷けば、安堵するように息を吐かれる。どれだけ心配されるのやら……。
なんとも言えない奇妙な気持ちに陥りながら、私も食卓へ。タバサさんがテキパキと用意してくれた食事を前、両手を合わせて匙をとる。

今日のメニューはカレーであった。無難とも言えるその料理は、彼女の得意料理の一つでもある。
スパイスから作られるルーの味は現代では味わえない奥深さが溢れており、味わったことのない風味を堪能できて幸せだ。これを食べられないとは、世の人間は哀れである。

「……リレイヌ。明日なんだが、少しお使いを頼んでもいいか?」

モクモクとカレーを堪能していると、ふと思い出したとでも言いたげにアルテスタさんが顔をあげた。髭の長さはあれなのに、そこに一切カレーのルーが付着しないことにちょっとした疑問を抱きながら、「お使い?」と小首をかしげる。

「ああ。依頼の品が一つあってな。本来であれば今日が受渡日だったんだが、どうも相手方の都合が悪いらしい。明日、メルトキオにある道具屋まで持ってきて欲しいと頼まれた」

本来であれば断るそうだが、今回ばかりは常連の客だった為に引き受けてしまったようだ。報酬金額をプラスする条件で、配達を受諾したと言う。

「わしが行きたいのは山々なんだが、どうも足の調子が悪くてな。すまんが、変わりにメルトキオまで行ってきてもらいたいんだ」
「なるほど。わかりました」

日頃の感謝もあるのだ。断る理由などないだろう。
喜んでお受け致しましょうと微笑めば、アルテスタさんもつられるように笑みを浮かべた。「迷惑をかけて悪いな」と謝る彼は、流れるままにカレーを食べ終え、席を立つ。

「さて、わしは仕事があるから作業に戻ろう。リレイヌ、薬作りも程ほどにしておくんだぞ」
「ええ、わかっています。アルテスタさんこそ、夜更かしはやめてくださいね」

家主に倒れられてはシャレにならないぞ。
そういう意を込め告げた言葉に、アルテスタさんは「わかっているさ」と頷いていた。

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