3
ゴウッ、と強い風が吹き、崖下から姿を現したのは巨大な龍。蛇のような長いそれの体躯は漆黒で、その瞳は赤い、獣のようなモノになっている。
ミトスも、ロイドたちですら、その姿に圧倒された。
そして同時に感じる、強い畏怖と神聖な気配。
これに、彼らは知らず知らずのうちに息を飲む。
「……恐ろしいですか?」
優しく問われ、皆はそんなことないと首を横に振った。
龍はそんな彼らの様子にクスリと笑うと、少女の姿へ。「今のが世界を壊すんです」とやわりと述べる。
「どんなに抗おうとも抗えぬ運命…私は、いつか化け物と成り果てる。いつか、皆さんの……ミトスくんの大切な人を、殺すかもしれません。その時に、そばに居ることを悔いても、遅いんですよ?」
「……リレイヌ」
ミトスは一歩前へ。片手を差し出す彼に、リレイヌはきょとりと目を瞬く。
「ボクが君を、救ってみせる」
「……そっか」
悲しそうに笑んだ彼女の背後、出現した白い渦。皆が驚く中、リレイヌは「お別れをしましょう」と一言。ミトスを見る。
「次の世界に行かなくてはいけません。ミトスくん、着いてくるなら、君も皆さんにお別れを」
「……わかった」
ミトスは万が一にも彼女がどこかへ行ってしまわないようその手を掴むと、くるりと皆を振り返った。そして、「そういうわけだから」と告げ、笑みを浮かべる。
「まあ、短い間だったけど、楽しめた。この世界のことは頼んだよ、みんな」
「……ミトス、ほんとに良いのか?」
「うん。ボクはリレイヌと行く。例えこの世界に戻ってこられなくとも、彼女と行くよ」
「そうか…」
ロイドは頷き、「リレイヌ」と彼女を呼んだ。
呼ばれた彼女は、ゆるりとした動きで彼を見る。
「自分が器だなんて、悲しいこと言うなよ」
「……」
「お前のこと、俺たちも救う方法探してみる。だから、ミトスと一緒に、仲良くな。んでもって、いつかまたみんなで会おうぜ!」
ロイドの言葉に困ったように微笑んだリレイヌは、こくりと一度頷くと、ミトスを見た。ミトスはそれに頷きを返し、「それじゃあ」と踵を返して渦を見る。
「……覚悟はいいですか?」
問われる言葉。
「うん。もちろん」
告げるミトスは、どこまでも強い瞳を晒していた。
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