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「……これで、良かったんですか、師匠…」

小さく零し、息を吐いて。それから、薬草畑の中から空を見上げる。
おいでと呼ぶ声が、先程から止まない。きっと、次の行き先に、私を導こうとしているのだ。

私はゆっくりと前に出た。そして、崖の終わりで足を止め、沈黙し、くるりと背後を振り返る。

「……リレイヌ」
「ミトスくん…」

彼が、居た。虹色の翼を覗かせた彼が。

ミトスくんは私を見つけるや早々、羽を仕舞ってこちらへ。パタパタと寄ってくる彼に、私は「どうして来たんですか」と、一言告げる。
ミトスくんはそれに、苦虫を噛み潰したような顔をした。そして、「約束した」とぽつり。

「ボクが望むならずっと一緒だって、言ったじゃない…」
「……真実を知っても、ですか?」
「リレイヌが神様だって関係ない!ボクは君といたい!……それは、ダメなことなの?」
「……」

困ったように微笑み、私は着いてくるように降り立ったロイドさんたちを一瞥。俯くミトスくんの手をそっと取り、やんわりと微笑む。

「世界には、君の知らないことがたくさんあります」
「……例えば?」
「そうですね……私はいつか、私ではなくなる日が来る、とかですかね」
「……それってどういう…」

お話しましょう、と、私は静かに目を伏せた。







かつて、神は人々に恩恵を与えた。
多大なる祝福を。溢れんばかりの幸福の雨を天よりふらせた。

しかし、人々は神を裏切り牙を剥いた。

天に橋をかけ、神を引きずり下ろさんと反逆した。

神の愛する人を殺めた人々。
愛する人を殺され、怒りに飲み込まれた神。

神はこの時より、人々を殺めることをそのお心に誓い、姿を消した。

愛する人の、亡骸と共に──。







「我々龍神は、初代龍神ヨルドーンにより作られた、謂わば器です。そしていつか、この器はヨルドーンの愛した人の成れの果て…地下世界に封印された災厄の化け物、イヴと成り果て世界を壊す。つまり、私と共に居るというのは、とても危険なことなんです」

優しく、諭すように言葉を紡ぐ。
私がいかに危険な存在かを知ってもらうため。
ここで静かに暮らしていた方が幸せだと理解してもらうため、私は語る。

「それに、私は人と龍の間に生まれた忌み子。最も嫌悪すべき、危険視すべき生き物です。人と一緒にはいられない…」

呟くように言えば、皆は言葉をなくして口をとざす。
が、ミトスくんは違った。彼はゆるゆると首を横に振り、繋いだ私の手を強く握る。向けられる碧色が、つよく、私を写す。

「ボクは救うと誓った。もう、誓いは違えない」
「……ミトスくん」
「それに、忌み子だからとか、神様だからとか関係ないよ。リレイヌはリレイヌじゃない。ここに居るみんな知ってる。君はとても優しい人だってこと」

化け物になんてならないよ、と告げたミトスくんに、下を向いた。今度は私が首を横に振れば、ミトスくんの手が、さらに強く私の手を握る。

「化け物になんてならない。君のことは、ボクが守る」

ふわりと、風が揺れた。
私はそっと目を閉じ、ミトスくんの手を離す。
そして、一歩後ろへ。
困ったように微笑み、トン、と地を蹴り崖を飛ぶ。

「リレイヌっ!!!!」

悲痛な声を聞きながら、私は静かに、姿を変えた。

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