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「……この方がミトスくんの?」
「うん。姉様」
宙に浮かぶ花の中、眠るように目を閉じるのは緑の女性。
美しいその女性は、名をマーテルというらしい。
彼女はミトスくんの血の繋がった家族であり、彼の心の拠り所であった人。
どんなに辛いことも、彼女がいればなんでも堪えて乗り越えられた。そう、ミトスくんは悲しげに語った。
「姉様さえ復活すれば、後はどうでも良かったんだ。世界がどうなろうと、人がどうなろうと、どうでも良かった…」
「……後悔してます?」
「ううん。してない。ボクはボクのした選択を悔いたりしない。何度生まれ変わっても、同じ選択をする。し続ける」
「……そうですか」
悲しい生き物だな、なんて思ってから、私はこれからどうするかを問うた。ミトスくんはそれに、「それなんだけど」とこちらを見る。
「ボクはロイドたちを止めた方がいいと思う」
「と、言いますと?」
「うん。そもそも、二つの世界を分けたのは、マナが不足してたからなんだ。このままロイドたちを野放しにすると、世界統合を果たしてしまう。結果、マナ不足で世界は滅亡する…そんな未来は避けたいじゃない?」
「それはそうですね。けれど、私は反対しておきます」
「どうして?」
キョトンと目を瞬いた彼に、言う。
「友人と戦わせる訳にはいかないので」、と。
ミトスくんは私のセリフに面食らったような顔をすると、やがて下を向き「そっか…」と頷いた。だらしなく緩む口元を隠した彼は、パッと顔をあげて「それじゃ、どうしようね」とマーテルさんを見上げる。
「……二つの世界を分けた、と言っていましたが、どのような方法でそのような超人的な技を成し遂げたのか訊いてもいいですか?」
「ああ、エターナルソードだよ。精霊王オリジンが創り出した魔剣。それを使って世界を二つに分けたんだ」
「なるほど」
じゃあそのオリジンって方に会いに行ってみませんか?、と提案。「なんで?」と訊かれたので、「精霊の王と話したら、なにかヒントが得られるかもしれないじゃないですか」と微笑んでおく。
まあ実際は精霊王と話してみたい。そんな理由なのだが…。
「……まあ、別にいいよ」
頷いたミトスくん。「でも…」と彼は続ける。
「オリジンは今封印されてる。そして、その封印を解くためにはクラトスが必要だ」
「クラトスさんが?」
「うん」
頷いた彼にへぇ、と一つ。
「まあでも、封印なら私でも何とかできると思います」
「リレイヌが言うと嘘に聞こえないから怖いんだけど…」
「嘘言ってないので」
ほら、行きましょう!、と彼の背を押した。
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