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「み、みみ、ミトス!? ど、どうしたのさその怪我!?」

早朝。
戻ってきたロイドさんたちを出迎えると、ジーニアスくんが忽ちに声をあげた。原因はミトスくんの頭に巻かれた包帯のせいだろう。顔面蒼白で狼狽えている。

「大した怪我じゃないよ」
「外の岩をご覧になりまシたか? 先日地震があってソの時、私があの岩の下敷きになりそうになった所を、リレイヌサんが助けてくれたのでス。そんなリレイヌサんを庇ってミトスサんが……」

笑って言うミトスくんに、タバサさんが心配げに口を開いた。
一斉に向けられる視線に、私はあはは、と苦笑する。

「お前さん達、来ておったのか!」

居ずらくなった空気の中、工房からアルテスタさんが出てきた。
何か作業をしていたのか、彼の手には黒い汚れが目立つ。

「お前さん達が来ておるということは、世界は……」
「その事も含めて色々とお話があります」

本題をきりだしたリフィルさんに長くなると悟ったのだろう。
アルテスタさんは頷くと、近くにあったテーブルを示した。





「──コレットの病はおそらく永続天使性無機結晶症じゃろう」
「永続天使……?」

コレットさんが病にかかったらしい。ロイドさんたちがその症状を伝えると、アルテスタさんは迷わず答えを導き出した。
聞きなれない言葉に眉をひそめるジーニアスくんに、アルテスタさんは頷いた。

「百万人に一人という輝石の拒絶反応じゃ」
「治療法は分かりますか?」

リフィルさんの言葉にアルテスタさんは眉をひそめ。
ゆっくりと口を開いた。

「治療法は遠い昔に途絶えたと聞いておる。じゃが、古代大戦の資料を調べればあるいは……すまんな。ワシでは力になれんようだ」
「そんな事無いです! 病名が分かっただけでも十分ですから!」
「ありがとう、アルテスタさん!」

希望が見つかった。そう言いたげな皆を見回し、私はそろりと片手をあげる。「あのー……」と声を発せば、ジーニアスくんが「どうしたの、リレイヌ?」と振り返った。

「あ、いえ、大したことではないんですが……コレットさんの症状、少し拝見させていただいても大丈夫でしょうか? もしかすると、治療が可能かもしれません」
「な!? 本当か!?」
「はい」

詰め寄ってくるロイドさんに頷けば、コレットさんが一歩前へ。「リレイヌ……」と不安げな彼女を安心させるように微笑めば、彼女は一度うつむいた後、しっかりと頷いてみせた。

「わかった。お願い、リレイヌ」
「はい。では、少し場所を移動しましょうか」

さすがにこの場で乙女の裸体を晒すわけにはいかない。にこやかに言った私に頷き、コレットさんは別室へ。私もその後を追いかけようとして、リフィルさんに呼び止められる。

「リレイヌ。私も同伴して構わないかしら?」
「はい。もちろんです」
「ありがとう。では行きましょうか」

リフィルさんに頷き、コレットさんの後を追いかけ私たちも別室へ。一応と、誰も入ってこないように鍵をかけ、ベッドに座るコレットさんへと歩み寄る。

「とりあえず、腕を見せていただけますか?」

言えば、コレットさんは一度渋った後、ゆっくりと袖を捲りあげた。その下から覗く白い腕には、結晶化が見受けられる。症状的にはかなりの進行度にちがいない。

「ふむ、なるほど……」

失礼しますと腕に触れ、結晶化している箇所に手をかざす。そのまま、癒しの力を発動させれば、ふわりと、柔らかな光が周囲に舞った。

「これは……」

リフィルさんの驚く声を背に、集中する。乱れたマナ、と呼ばれるものを正常に戻すために。

「……あ!」

数分もしない内に、結晶化は溶けるように消失していった。本来あるべき色が戻ったことに、コレットさんは感動したように「すごい……」と声を漏らしている。

「いけそうですね。……コレットさん。他は?」
「あ、うん! えっと、あとは背中と、足と……」

場所を聞き、全ての箇所に同様の治療を施す。そのお陰か、すっかり元の肌に戻ったコレットさんは、「ありがとうリレイヌ!」と朗らかに微笑んでいた。

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