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「──リレイヌ! 怪我はないか!? 体調は!? どこも悪くないか!?」
「た、ただいまです、アルテスタさん……」
数日ぶりの、この世界での私の家。ようやく帰ってこれたことに嬉しさを覚えながら家の中へと踏み込めば、珍しく工房から出ていたアルテスタさんに迎えられた。激しく心配してくる彼に無事を伝え、なんとか落ち着いたところで皆を紹介する。
「アルテスタさん、紹介します。私のお友達です」
「ど、どうも……」
ロイドさんがたじたじになりながら挨拶をした。その姿を視界、アルテスタさんは少々無言に。すぐに「リレイヌが世話になったようだな」と、前に出る。
「ドワーフ、アルテスタだ。リレイヌの件について礼を言わせてもらおう。ありがとう」
「い、いや、巻き込んじまったのは俺たちの方なんで、お礼なんて……そ、それより、要の紋について教えてくんねえか?」
「要の紋?」
ピクリと反応を示したアルテスタさんに、嫌な予感がした。けれど、それに気づかぬロイドさんは、「ああ」とうなずき言葉を続ける。
「実は、俺たちの仲間のプレセアが……」
「プレセア? プレセアだと……?」
アルテスタさんの声が震え、次の瞬間、彼は「帰れ!」と皆に向かって叫んでいた。なにかを恐れるような、逃げるような彼の姿に、誰もが不思議そうな顔をする。
「あの子の事はもうたくさんだ! 出て行ってくれ!」
「な!? プレセアがどうなってもいいっていうのかよ!?」
「帰れ!!!」
完全に拒絶しはじめたアルテスタさんに、ロイドさんが拳を握った。その姿を尻目に声を発そうとした私を止め、ミトスくんが一歩前に出る。
「ミスター、アルテスタ。どうかお願いです。少しだけでいい。ボクたちの話を聞いてください」
告げる彼は、真剣な表情だ。まっすぐな瞳は逸らせるものではなく、さすがのアルテスタさんも言葉を、足を、止めてしまう。
「プレセアさんを助けてあげてください。彼女は今、心をなくし、大切なものに気づくこともなく過ごしている。それがどれほど辛いものか……リレイヌを想うあなたなら、わかるんじゃありませんか?」
「……」
アルテスタさんが背を向けた。無言で工房に赴こうとする彼の名を、私は呼ぶ。
「……抑制鉱石を探せ」
返ってきたのは、小さな震え声だった。
「抑制鉱石?」
「要の紋を作るために必要な鉱石だ。恐らくはトイズバレー鉱山にあるだろう」
言って、そそくさと工房に戻っていったアルテスタさんを、追いかける者は誰もいない。皆黙って、互いに顔を見合わせている。
「トイズバレー鉱山……知ってるか?」
「ああ。アルタミラからユミルの森へ向けて斜めに続く、一連の鉱山地帯だ」
答えたのはリーガルさんだった。彼はプレセアさんを助けるならば自分も協力したいと名乗りをあげる。もちろんその申し出を、ロイドさんは素直に喜んだ。喜んで、リーガルさんを見て、次いで私を見て、眉尻をさげる。
「リレイヌたちは残るんだよな?」
「はい。これ以上アルテスタさんに心配をかけるわけにはいきませんので……」
「ボクも、足手まといにしかならないと思いますし……」
「そっか」とロイドさん。どこか寂しげな彼は、「また会いに来るからねっ!」と必死なジーニアスくんの肩を叩き、アルテスタさんの家に背を向ける。
「またな。二人とも」
それだけを告げて去っていくロイドさんの背は、どこか悲しげであった。
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