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「あの男、やっぱりハーフエルフだわ」
「そういえば、前にメルトキオで会ったような……」

男が去った所でリフィルさんが息を吐き、ロイドさんが呟く。

「何だか気持ち悪い人だったね」

コレットさんも、ロイドさんの呟きに同意を示さんとそう呟いた。

「同感。アレで俺さまと同じ男として生まれてきたと思うとかわいそうでもあるけどな。うひゃひゃ」
「同レベルじゃないの」
「……このクソガキ」

自慢げに笑うゼロスさんに、ジーニアスくんが冷たい言葉をかける。
もう見慣れてしまったその光景に、私はたまらず苦笑した。

「とにかく、一度話をした方がよかろう」

呆れているのか、プレセアさんの事が気がかりなのか。プレセアさんの家を示すリーガルさんにロイドさんが頷き、家の中へと進む。
私もそれに続くが、微かに臭う香りに、思わず足を止めた。

「このにおい……」
「リレイヌ? どうしたんだい?」

思わず口元を覆えば、前を行くしいなさんが振り返った。かなり臭う空間であるはずなのに、その顔色は変わらない。

「……腐敗臭がします。なにかが腐っている……いや、これは……」

恐らく、死体だ。
言葉を詰めた私に、他の面々も感じることがあったのだろう。表情を険しくしながら家の奥へと進んでいく。

比較的大きな家の中では、プレセアさんがせわしなく家事に追わていた。彼女が動く度に、床の埃が宙に舞う。随分と長い間、掃除がされていない証拠だ。

「……なんだ、このにおい……」

ロイドさんも、この家の中に漂う腐敗臭に気付いたのだろう。足を止め、あたりを見回しはじめた。

「あれっ……!」

はっとしたように、コレットさんが妙な膨らみのあるベッドを指さす。
ベッドに歩み寄り、リフィルさんは口元を押さえた。

「なっ……なんてこと」

その強烈な腐敗臭に、私は息を止め、ベッドを覗きこんだ。
そこに居たのは、安らかな寝顔とはかけ離れた顔。

「おいおいおい。シャレになんねーぞ」
「どうして、こんな事に……」

ゼロスさんが顔を引きつらせ、しいなさんが声を震わせる。

ベッドにいたのは、息絶えてから数年は経っている人だった。
肉は腐り、虫が湧き、腐敗の影響でベッドには染みが広がっている。殆ど白骨化しているせいでこの息絶えている人が何者かは分からないが、恐らくこれはプレセアさんの父に違いない。

「おそらくエクスフィアの寄生のせいで、プレセアにはベッドの中の人間の状態が分からないのね……」

「そんな……!」

言われてみれば納得ができる。
傍らで仕事をこなすプレセアさんは、死体が傍にいると認識していると思えないのだ。

「プレセア。一緒に来ないのか?」

リーガルさんがプレセアさんに歩み寄り、彼女と視線を合わせて話かける。

「仕事……しないといけないから」

が、彼女はリーガルさんを一瞥しただけで仕事に戻ってしまった。
また次の仕事の用意をしているのだろう。斧を取り出し、砥石を当てる。

「……プレセアは置いておきましょう」
「こんなところにか!?」
「今のままでは彼女が暴れるだけよ。私たちだけでアルテスタの所へ行って、要の紋の修理について聞きましょう」

リフィルさんの言う事は正しい。
家に残るという彼女の意思を妨げれば、彼女は皆を敵とみなす可能性が高い。

「……そうだな」
「なるべく早く戻れば大丈夫ですよ。もしかすると、その要の紋という品も、アルテスタさんなら持っているかもしれませんし……」

渋々頷くロイドさんに、私は笑みを浮かべた。
このような場所にプレセアさんを置いておくのは心苦しいが、今は仕方がない。

「じゃあプレセア。また会おうね」

コレットさんが挨拶をして家を出るが、仕事中の彼女は何の反応を返す事もなかった。

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