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「──エレカーで海を渡ったら、まずはサイバックの王立研究所に行く。それからミトスとリレイヌを家まで送り届ける。それでいいか?」
合意を求めるように視線を送られ、私は静かに頷いた。ミトスくんも異論はないようで、「構いません」と答えている。
「そういえば、二人はなんで研究所にいたんだい?」
ふと、しいなさんが問うてきた。不思議そうなその質問に「資料探しです」と答えれば、目を瞬かれる。
「資料探し? なんの?」
「魔物に関する資料です。ちょっと勉強用に必要でして……」
少々曖昧に言葉を区切るも、納得はしてくれたようでそれ以上の質問はこなかった。その事実に一安心しながら、私は広大な海へと視線を向ける。
潮風が、肌を優しく撫でていた。
◇
サイバック王立研究所。
見張りの兵士がいたら、と思ったのだが、教団の兵も橋を渡ってくるとは考えていなかったらしい。
手配書のない街を進んでいくと、広場へと続く道の先にて前方の方々が停止。不思議に思い足を止めようとしたところで、ミトスくんに腕を引かれて建物の陰へと連行された。何事か。
驚き彼を見れば、ジェスチャーで静かにするよう指示される。
「クラトス! コレットを連れていくつもりか!」
剣を抜き放つロイドさん。
ゆっくりと振り返ったクラトス?さん、がやれやれと言いたげに口を開く。
「……街中でお前とやり合うつもりはない。それに、お前の腕では、まだ私を倒すことなど出来ないだろう」
「バカにするな!」
「事実を言ったまでだ」
淡々としたクラトスさんに、食いかかろうとしたロイドさん。そんなロイドさんの肩をリフィルさんが強く掴み、自分の方へと引き寄せた。「ロイド! 落ち着きなさい!」と告げる彼女は、まさに立派な大人そのものだ。
「こんな街中で騒ぎを起こせば、一般人に被害が出るわ。そうすれば兵士も来てしまう」
彼女の真剣な表情に、ロイドさんは言い淀む。その姿を前に、クラトスさんはロイドさんの横を通り抜け、コレットさんの前に立っていた。
「再生の神子。生きたいと思うのなら、そのできそこないの要の紋を外す事だ」
「いやです。これはロイドが私にくれたものだから、絶対に外しません」
言ってコレットさんは、ロイドさんがくれたという要の紋らしき物を握り締めた。
クラトスさんも強く否定するコレットさんを見て何を言っても無駄だと思ったのか、「……バカな事を」とだけ呟くと、そのまま町の外に向かって歩いて行った。
クラトスさんが消えたことにより、ミトスくんの緊張が僅かにだが消え失せる。その横顔はまあ、ひどく暗いものだったが……。
「……ミトスく」
「リレイヌも、ボクを裏切る……?」
「え?」
いきなりなんだと目を見張れば、振り返るように顔をあげたミトスくんと目があった。なにかに怯えるように震えるその目は、なぜかとても寂しそうだ。
「ミトスくん……?」
どうしたのだろう。思いながら、その心の内に目を向ける。そうすることで合点がいった。今の彼は、とても孤独なのだと。
「……ごめん。なんでもない。忘れて」
背けるように下を向いた顔をあげてほしくて、私はミトスくんの手をそっと握った。ハッとしたようにあげられた顔をしっかりと見ながら、にこりと微笑む。
「ずっと一緒ですよ。君がそれを望むなら」
「リレイヌ……」
「……さ、皆さんの所に行きましょう。いきなり消えたら驚かれてしまいますよ」
ふふ、と微笑み、建物の陰から皆の元へ。幸いにもこちらに気づいた様子のない彼らへと近づけば、同じくして、ジーニアスくんが口を開く。
「あいつ、何しに来たのかな」
訝しげな声に、確かに、と心の中で同意した。
「しっかし偉そうな奴だな。すかした喋り方しやがって」
「アンタはその下品な喋り方直した方がいいんじゃないの?」
悪態をつくゼロスさんに、しいなさんが鋭い指摘をする。最も、ゼロスさんは気にした様子もなく、いつも通り独特の笑い声を上げていたが。
「それより、ロイド。そのケイトという人の所へ行かなくては」
「そうだな。急ごう」
リフィルさんの言葉に、動き出す一同。私たちもしっかりと、その後を追いかけていった。
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