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「──おーい!リレイヌ!」
なぜ顔を背けられたのかわからぬまま、首を傾げる私。そんな私の背後、明るい声で駆け寄ってきたロイドさんが、顔をあげた少年を確認。「お前も無事だったか!」と笑みを浮かべた。
自然と力を失った手が、離れていく。
「怪我はないか? 助かってよかったな!」
「……ボクたちはあなた方に巻き込まれただけですけどね」
「うっ、それを言われたら申し訳ないというかなんというか……」
一歩引いたロイドさん。そんな彼を押し退ける勢いで、ゼロスさんが「リレイヌちゃーん!」とやって来る。
「俺様の活躍見てくれたー?かっこよかったっしょー?」
「はい。とても。守っていただき感謝しかありません。ありがとうございます、ゼロスさん」
「リレイヌちゃん律儀ね!そういうとこ、俺様好きよー!」
デレデレなゼロスさんにあはは、と苦笑。なぜこうも寄ってくるのか、わからずにとりあえず流しておけば、例の銀髪二人がやって来た。「巻き込んでしまってごめんなさいね」と謝る女性に、私は「大丈夫ですよ」と一言。「ね?」と、同意を求めるように少年を見る。
「……うん」
小さいながらも頷いた少年に、「ありがとう」と、私は微笑んだ。
「と、ところで二人とも、名前はなんていうの!? ぼ、僕、ジーニアス! ジーニアス・セイジ!」
「私はリレイヌと申します。こっちは、えっと……」
「……ミトス」
ぽつりとこぼされた名前。少年が告げたそれに、ロイドさんが「勇者ミトスと同じ名前!?」とおののいた。
はて、勇者ミトスとはなんぞや?
考える私をよそ、話は進む。
「勇者と同名なんて、すげーなお前!」
「いや、別に大したことじゃ……それに、ミトスという名前はよくあります。なにもすごくないですよ」
「そうなのか?」
不思議がるロイドさんに、ミトスくんは頷いた。
勇者と言われるだけあり、その名は結構人気らしい。
──勇者ミトス、ねぇ……。
なぜだか妙に引っ掛かる単語だ。
これは帰ったら徹底的に調べるしかないと、密かに決意し、「それはそうと」と話に割り込む。
「これからどうすれば良いのでしょう……早く帰りたいのですが、ケイトさんのことも気になりますし……」
「あ、そっか。約束したもんな。助けたら連れてくって……」
「……なんのこと?」
問うてくるミトスくんに、軽く説明。「ふぅん……」と頷く彼は、わりとどうでも良い、と言いたげな表情を浮かべていた。
「けど、さすがにこれ以上巻き込んじまうのは気が引けるよ。ケイトのことは、私らだけでも良いんじゃないかい?」
「えー、俺様もーちょいリレイヌちゃんといたいなー!」
「あんたは黙ってな!」
夫婦漫才のようなやり取りを尻目、最終判断は任せると視線をロイドさんへ。困ったように考え込む彼は、少し迷った後に「よし!」と頷きこう告げた。
「巻き込んだお詫びに、二人のことは俺たちが責任持って家まで送るよ! 道中に騎士団がいたら危ないしな!」
「ですが、私たちの家は橋の向こう側ですよ?」
「えっ、あー……な、なんか悪い……」
謝る青年に苦笑。
とりあえず、私とミトスくんだけでも休ませてやろうと、近場の街まで赴くことが決定した。
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