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「言ったろ。この世界じゃハーフエルフはゴミ同然だ。王立研究院で働くハーフエルフは、一生研究室から出してもらえない。……一生な」
「そんな……無茶苦茶だ」
「そいつの是非はともかく、どうしてここから出られないこのハーフエルフとプレセアが知り合いなんだ?」

鋭い眼光に、女性は眉を寄せたまま無言に。やがて、観念したように話しだす。

「……その子はウチのチームの研究サンプルよ」
「研究? 何の研究だ?」
「人間の体内でクルシスの輝石を生成する研究」

淡々と言った女性の言葉に、赤色が不可解そうに眉を寄せる。私も同じような表情だ。
クルシスってなんだ。輝石ってなんだ。そんな疑問が頭の中に浮かんでいる。

「クルシスの輝石なんて作れるのか?」
「作れるわ。理論的にはエクスフィアと変わらない。人間の体内にゆっくりと寄生させて……」
「ふ、ふざけるな!」

思わずといったように、青年は声を荒げた。
なにかを思い出したのか、不可解そうな表情から一転。どこか怒りを孕んだ顔で眉をつり上げる姿は、なかなかに迫力がある。

「それじゃあ、まるでディザイアンがエクスフィアを作っていたのと同じじゃねぇか!」
「何?何を言ってるの?」
「人の命を何だと思ってるのかって、そう言ってるんだよ!」

意味を理解できずに歪められた女性の眉が、今度は険しさを持ってつり上がる。そうして怒鳴る赤色を睨みつける姿も、これまた迫力あるものだ。この場にジルくんやノウェラがいたなら、確実に青ざめてしまいそうな光景である。

呑気に考える私に気づくことなく、女性は強く両手を握りしめた。
そして鋭く、己が意見を口にする。

「……その言葉、そっくりそのまま返すわ。あんたたち人間は、ハーフエルフの命を何だと思っているの」
「同じだよ。そんなの同じに決まってる。ハーフエルフも人間も、生きてるって事に変わりないだろ!」

強く紡がれた言葉を肯定するように、どこからか声が降ってきた。

「……そいつはテセアラの人間じゃない」

聞き覚えのない声に顔をあげれば、同じくしてぶわりと煙が起き、すぐに霧散。
煙の中から、麗しい女性と、変な狐が現れる。
随分と綺麗な人だ。
私はぼんやり考えた。

「シルヴァラントでハーフエルフやドワーフと育った変わり種だよ」

狐によって手錠が外された手首をさすりながら、驚いたように赤色たちは振り返る。
どうしてここに、という疑問には首を振り、女性は再開を喜ぶわけではなく、真剣な眼差しで青年を見た。

「ジーニアスとリフィルがメルトキオに連行された。今追いかければ助けられるはずサ!」
「あんたたち、逃げるつもりなの?」
「邪魔するつもりかい?」

鋭く目を細めた二人に、赤髪男が緩く口角を上げて女性を見る。

「こいつは親友のハーフエルフを助けに行くつもりなんだ。どーする? ハーフエルフのお姉ちゃん?」

女性は動揺したように瞳を揺らし、そんなはずはないと否定した。
それに、近くで話を聞いていた男性が静かに口を挟む。

「……しかしケイト、上でハーフエルフが三人連行されたって話を聞いたぞ」

ケイト、と呼ばれた女性が口を閉ざした。沈黙して瞼を伏せ、やがて「三人?」と疑問を口にする彼女に、元々両手が自由な私は「あ、一人は私の知り合いです」と口を挟む。驚いたように向けられる瞳が、キッとつり上がった。

「見捨てたのね」
「いや、状況についていけずに気づけばここにいただけです」

寧ろ私は被害者だ。
そんな思いで赤色を見れば、彼はこくりと頷いた。「俺たちのせいで巻き込まれて……」と告げられる言葉に、ケイトさんは再び沈黙。
やがて視線を赤色へと向け、疑惑と期待を混じらせた瞳で、一言、「いいわ」と頷いた。

「見逃してあげる。そのかわり、そのハーフエルフの仲間を助けたら必ずここへ戻ってきて。あなたたちの話が本当だったら……プレセアを研究対象から解放してあげてもいいわ」
「本当だな?」
「女神マーテルに誓って」
「……わかった」

瞼を伏せたケイトさんが踵を返し、棚へと近づく。そしてそれを横に動かすと、音をたてて隠し通路が出現。突然のSF感に、心が踊る。

「ここからサイバックの街へ出られるわ」
「助かる」
「急ぐよ! 橋に向かうんだ!」
「あ、私も……」

小さいながらも言葉を発せば、「ああ!一緒に行こう!」と頷かれた。ちょっと安堵しながら皆を追えば、飛び出た通路で「名前は?」と問いかけられる。

「あー、リレイヌです」

短く答え、口を閉ざした。

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