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「―――何処だ…!?居ねぇ……。」


何処にも居ない。

山城勘二の寝ている隊士部屋にも、厠にも、風呂場にも、裏庭にも居ない・・・。


――という事は―――やっぱり…。



また、あの時の記憶が蘇った。



「―――まさか……。」

思いついた場所は、蔵の中。
米等が沢山山積みにされている、蔵の中――4年前も――蔵だった――



晃に悪寒が襲うが、気にしている場合では無かった。

――兎に角、蔵へ行かなければ…!!


ガラッ



「―――遅かった、か…。総司…。」
「間一髪ってとこですよ。この通り喋れない状態ですけどね。」



総司が居て良かった。居なかったら、今頃神谷さんは―――


   山城勘二に、完全に”手篭め”にされている所だった―――



「申し訳ありません…」

土下座をする晃。

それに対して沖田の胸の中で顔をグチャグチャにしながら泣いている神谷は、そのままの顔で晃を見た。
きっと、”どうして”と言いたいのだろう。
だが声が出ないようだ。



「私がもう少し早く来ていれば……。
 申し訳ありません!」

もう一度土下座をする晃。



「――まったく、神谷さんも晃も。
 これしきの事で武士が喚くもんじゃないでしょうに。」
「俺はこういう事で泣いたことねーぞ。
 ――けど―――」

言葉を止めたかと思うと、晃は神谷を総司から無理矢理奪い取り、神谷を総司の方へ向けた。

「神谷さん。
 この黒ヒラメ(・・・・)が手篭めにされそうになった事が一度でもあると思いますか!?」

晃がそう言った途端、まだ少し泣いていた神谷もピタリと泣き止み、じっと総司を見た。


「…な。
 お前は分かってないだけなんだ。
 俺だって、本当に死にたいと思うくらい嫌だったけど、…でも、俺はきっと神谷さんより弱い。」

さりげなく”黒ヒラメ”と言った晃。そしてそれに僅かに傷ついている総司だが、そんな事を気にしているような雰囲気ではなかった。
神谷も総司から晃の方を見る。

”俺はきっと神谷さんより弱い”という言葉の意味を総司は分かってはいたが、神谷はまったく分からないようだ。
まあ、それも当然の事なのだから。



「――神谷さん。総司がどんな事を言ったかは知らないけど、あなたは今日の巡察は休みなさい。」
「晃。その必要は無いですよ。もしこれが大捕り物を行おうとしている時だったらどうしますか。」


冷酷な沖田の言葉。


「もし、この不安定な精神こころのまま巡察にでも出かければ、この子の寿命は縮まるかもしれない。
 仇討ちもできないで無念と恨みの残った心のまま死ぬのか。
 ――そんな事がどうでもよくたって、他の隊士達に迷惑をかけでもしたらどうする。」


冷酷な月村の言葉。



「――分かりました。」
「神谷さんは今日の巡察は休んで構いません。」


そう言い残し、沖田は巡察へと出かけた。






―――それからどのくらい経ったか。

晃の体内時計にして約小半時。



「月村先生。」
「はい?」


2人は未だに蔵の中に居た。



「あの…さっき言っていた、私より月村先生が弱いと言うのは、あれは違うと思うんです。」
「どうしてそう思うんです?
 私には神谷さんがとても強い人に見えますが。」
「だって、先生はお強いもの。 
 壬生浪士組の中でも有数の刀の使い手だと思いますよ。」
「貴方が言っているのは、刀さばき事のでしょう?
 確かに私は、飛天御剣流という技を運良く使えるようになりましたが、それか天然理心流のどちらかでも欠けていれば、かなり弱かったでしょう。
 ――それに、私が言っているのは、刀の使いではなくて”精神”の強さです。」
「…かなりの精神力がないと、やはり女の人は男と同等に闘えるほど強くはなれないのではないですか?」

神谷は、『女の人』という言葉を警戒してかなりの小声で言った。


「――だから、刀さばきの事じゃないんですって。」

晃が神谷に苦笑いを見せた。


「私も、手篭めにされそうになった事があるんですけど…。
 それから3日は気持ちが悪くて何も食べられなくて、運動も睡眠もできなくて、皆にも相当迷惑をかけたんですよ。」
「――月村先生が?」


――その言葉には、一体いくつの意味が含まれているのか――


その人を殺した事か、3日も具合が悪かった事か、運動も睡眠も出来なかった事か、皆に迷惑をかけた事なのか――



「さぁ、今日はもう寝なさい。明日も早いですよ。」
「――はい。」


誰にでも分かる、話の逸らし方。




――思い出したくない過去――



――それでも、脳は無意識に蘇らせる。



――それは己の脳の悪戯なのであろうか――

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