1/1






神谷の後を付ける。神谷に迷惑なほど話しかける。自分の魅力で神谷を引きつけようとする。




最近、あいつの動きが怪しい。

絶対何か企んでいる――。




いや、『何か』が何なのかは分かる。―――だから考えたくはない。

――けれど考えなかったら、また同じ思いをする人が増える。



動か無ければならないのだが、変に動けば少しまずいとは思う。



―――一体どうしたら――――



「いつ動くんだ…。」

「――何がです?」
「――ッまえ、聞いてたのかよ!?っていうか何時(いつ)からそこに居た!?」



聞こえない程の小さな声で言ったのに聞き取った、晃の隣に突然ひょっこりと現れた人物―――


「だから、動くって何がです? 討幕派(てき)ですか?」

「ちげーよ。その次に面倒な輩だよ。
 …まさかお前気付いてなかったのか?」
「だから、何がです?」
「少しは周りを見やがれ!この黒ヒラメ!!」


バキッ



「痛ぃッッ!?
 どーして殴るんです!?」

泣きながら頬の痛みを訴える沖田。

因みに、『黒ヒラメ』という言葉にも傷ついている。
なんだか沖田にとっては言われたくは無い言葉のようだ。



「テメーが周りに目を配らないからだよ!!」
 どーしてお前は……。 敵の異変にだって人の体の調子が悪い時にだって気付く癖に、こういう類の時に限って…………。
 もーいい!テメーはどっか引っ込んでろ!!」


一見して、怪獣…。



ただ、その時代怪獣なんて者は誰も知らないから、腹がすいて苛々しながら獲物を探す熊の様。

まぁ、今は腹が減っている訳でもなし、そこまで性質悪い晃ではないが、苛ついているのは変わりない。



ドスドスを足を鳴らして歩いて行くのも熊の様だ。



だが―――

「そんな事晃に言ったら殺される…。」


晃の殺気は沖田でも簡単に怯む事ができる程の脅威(・・)である。

殺される(・・・・)という言い方が大袈裟でも、叩きのめされるという事は確実だ。そう易々とは言えない。









――その夜――



夕餉を食べている永倉達。平隊士達も奥の方で食べている。

「…山城勘二さん―――何処にいるか知ってますか?」

「山城………ああ、さっき食い終わったらどっか行ったぞ。」
「そう、ですか。神谷さんは?」

「神谷は、まだ食べてない総司を心配してたから、ちーっとかったらどっか行ったぞ?
 どうかしたのか?」


山城勘二が居ない。ついでにいつも山城と一緒に居る船戸辰吉も居ない。そして、神谷も。




「………………っ」
「おい、晃………?」

返事をしない晃に永倉は不審に思う。そして、暫くもの付き合いの為か、微妙な異変にも気付いているようだ。

付き合いの浅い普通の隊士達には、晃は考え込んでいるようにしか見えないのだが。



――もし――今――


ふらり、と体制が崩れて片膝を着き、片手が、自然と己の腕を掴んだ。

こうしてやっと彼が変だという事に平隊士達も気付き、周りの視線が晃へと集まる。



「おい、晃!?どうした?」

遂に彼が本当に変だと思った永倉が止まっていた箸を置き、こちらに歩み寄る。

「いっいえ、すいません。
 少し寒気がするだけです。ちょっと今調子が悪いようなので、今日は早めに寝ますよ。」

「…そうか。ならいいんだけどよ…。なんかあるなら、俺たちに言えよ。」
「はい。すみません。ありがとうござ―――」




ガラッ




「――ッ総司…っ!」
「どうしたんですか?皆さんやけに静かで…晃も顔、真っ青ですけど……具合でも悪いんですか?」

「晃は今日調子悪りぃみてーだから、早めに――」
「総司。」

晃が永倉の話しに割って入る。
腕を抱えていた手もいつの間にか降りていて、晃に焦りの色が見える。

「……はい。」
「神谷さんを見たか。」

晃の間髪入れない言葉に、辺りは一瞬ひやりと冷たくなる。

「――いえ。」
「そうか。分かった。」

そう言って何処かへ行ってしまう晃。


「……なんか、変だよな、晃。」
「ええ。」



――平隊士にでさえも分かりそうな程焦っている晃。

これ程焦る晃を見る事は滅多にない。


――一体、何をあそこまで焦っているのか――

沖田でさえ分からないのだから、他の人に分かることはまず無いだろう。



「…私、ちょっと晃を見て来ます。
 すぐに戻るので、永倉さんはご飯を食べていて下さい。」



沖田にそう言われれば、自分が行くよりは沖田が行った方が良いという考えが、永倉の脳内に浮かんだ。


――せめて自分よりは総司の方が晃の事を分かっている筈。だったら―――

「ああ。」

――そう答えるしか無かった。



- 17 -


[*前] | [次#]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -