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「――改めて問う!
 諸君らは武士であるか!  
 身分ではない。士道に殉ずる覚悟があるだろうか。
 我々の思想に賛同し、隊務に命を懸けると誓える者のほかは、止めはせぬ。
 今すぐこの場を立ち去ってもらいたい!」

近藤の素晴らしい演説を聞いていた。

入隊志願者の者は皆張り詰めた空気の中でキリっとした表情で近藤を見据えていた。
まぁ、大方は俸禄が目当てだろうが……。



「――――――土方さん。」



沖田が落ち込んでから、月村は土方にやっとの思いで連れ出した彼の事を散々と口煩く言われたが、全て聞き流していた。
それには、別の事に気を取られていた―――もとい、仕事として気になる人物が居たため、そちらに気を使っていたのだ。
相手がどれほどの実力者か分からない為にふざけている芝居をうっていたが、正直1度に2つの事をこなすのは骨が折れた。


そして、今回月村が土方に呼びかけたのは、その『仕事』の為である――――。


「―――何かあったのか。」

土方も仕事の内容だという事を、彼の小さく低めで周りに聞き取られにくい声を聞いて判断した。
無論、土方も前は向きつつ周りに話の内容が聞き取られることのないよう、声の大きさを落とす。


「奥のほうに座っている総髪の長い髪の入隊志願者なのですが。
 …どうも、目が普通じゃない気がするんです。たぶん斉藤さんもここにはずっと居たから気づいていると思いますけど…。
 説明はしにくいんですけど、普通じゃない。―――そんな気がするんです。」
「――――あいつか。近寄っただけで血の匂いがしそうだな。確かに普通じゃねぇ。
 後で斉藤を部屋に呼べ。あいつの意見も聞いてみる。」
「承知。」


この新入隊士の入隊から、これから度重なって起こる悲劇の中でも屈指の悲劇が起こる。




―――――そして、月村は別の人物にも注意をしようと目を配っていた。

神谷の方をにこやかに見ている一人の男。
何をもってして注意するかなど、そんな大層な根拠など持ち合わせてはいない。
ただ、月村の経験からだ。


あの男――――。そう、あの男はまるであの男と同じような笑顔で自分を信頼させ、見事にその信頼を裏切ったのだ。
しかも、月村が最も嫌だと思えるほどの方法で。



あれを思い出すと身震いがする―――。


それを押さえる為に月村はグッと拳を握り締めた。




「土方副長。月村です。」


新入隊士の入隊試験が終わってから、土方に告げられた通り月村は斉藤を連れてきた。
入隊試験が終わってから月村が斉藤を呼びに行ったところ、斉藤も例の男を見ていた。
どうやら斉藤もあの男を妙だと思っているらしい。



「晃、とりあえずさっきの隊士について話せ。」
「はい。
 彼の名は鵜堂刃衛。流派も生まれも不明です。
 これは私の意見なので確証はありませんが、彼が話していても訛りが見当たらないので、恐らくは江戸の生まれかと。」
「やはり情報は少ないか。
 どうだ斉藤。お前は直参の家の生まれだ。もう少し何か分かりはしないか?」
「―――――やはり、副長も月村さんも感づいていましたか。
 あの男、先ほどの試験では本領を発揮してはいないようでしたが…。
 私の見た限りでは、彼は相当の使い手。人も斬ったことはあるようです。
 もしかすれば、ですが…。私や月村さんとも張り合えるかもしれない。」
「えっ?!そんなに強いんですかあの人?!」

斉藤や月村はほぼ互角の実力。
という事は、この幹部の多くと実力が同じという事になる。
少なくとも沖田や永倉とも張り合えるという事になってしまうのだ―――。

咄嗟に驚きで体を乗り出してしまった月村は、それに気づいてすぐに座りなおした。

「俺はただの勘を言ったまで。根拠はない。
 確実だという保障はどこにもないが、可能性のひとつとして考えてくれればいい。」


さらり、と言ってのけた斉藤に、月村はハハッと笑った。

「格好いいなぁ、斉藤さん。 どこぞのヒラメとは大違いだ。あいつだって下級とは言っても武士の生まれのはずなのに。」
「総司に格好よさを求めるな。求めるだけ無駄だ。」
「あははっ酷いなぁ〜土方さんは。総司が聞いたら泣きますよ。」


さっきまでの緊張感はどこへ行った、と思いながらも口には出さない斉藤。
2人のやりとりを無表情のままで見ている姿を初めて見た人は、少し怖さを感じるかもしれない。

斉藤に静けさに気づいて、土方はひとつ咳払いをした。
月村もすぐ後に座りなおした。


「とにかく、これからはその鵜堂という隊士は監視しておけ。
 何か怪しい動きをみせたらすぐに俺に報告しろ。」
「「承知。」」


―――――そして、悲劇の連鎖が始まった―――――


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