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――ちょうどその時、津柚が晃が遅いと思い、食事を作っている津柚の代わりに土方と近藤が様子を見に来た。



「お、おい…晃……。」

倒れている渓斎とかなり震えている晃を見て、2人も今の状況がなんとなく分かったのだろう。
土方が晃に歩み寄って手を伸ばすと、



「―――触るな……ッ!!」

晃が、普段では絶対に有り得ない事をした。


土方の手を弾いて突き飛ばすなんて事は、絶対にしなかった。

『触るな』なんて言葉を土方に向ける事なんて絶対しない晃が。


そうしたのだ。





すぐに声を聞いて駆けつけた津柚と、普通ではない騒がしさに不審に思った総司らが次々と来た。


「どうしたの?」

一瞬訳の分からなさそうな表情をした津柚だったが、直ぐに状況を理解し、晃の下へ走ってくる。

「………ッごめん!晃に取りに行かせなければ良かった。ごめん……!」
 怖かったでしょ。本当にごめんなさい、晃……!」


まるで子を宥める母のように抱きしめて言う。



「…こいつは………。」
「気絶しているだけだ。問題はないだろう。」





辺りでは、津柚が晃を抱きしめて背を擦る姿が見える。

総司たちは近藤に戻るように諭され、戻っていった。

土方と近藤の話す声も聞こえるが、普通の人は聞こえないんじゃないかっていうくらいの小さな声。
きっと、晃に内容が聞こえないように、限界まで声を小さくして話しているのだろう。


だが、育った過程で普通では聞き取れないほどの声も聞き取れるようになっていた彼には、しっかりと耳に届いていた。

無論、内容は気絶した渓斎をこれからどうするか、という事だ。






「すいません、姉上――!」

自分の姉や他の人を押しのけてまで行ったのは、蔵の外。




「うぇっ…ごほ……。」

あまりの気持ちの悪さに暫く吐き続けた晃は、それから後半時ほど、一歩もその場を動けずにいた。



――無意識に思い出せば、いくらでも蘇る――


―――――――――――恐怖――




ガバッ…!!



「…………っ!………はぁ…。また、あの時の夢――?
 またあの夢を―――どうして……………。」



あの後、渓斎は意識を取り戻した後に皆に
「一生晃の目の前に姿を現すな!」
「お前はクズ野郎だ!」
と罵声を散々浴びせられたが、終に反省の色も無く帰っていった。





そして、その男が再び現れたことは無かった。



「なんでだろう…。また寒気が…。
 外の空気でも吸えば少しは治まるか…。」



変だ、夏なのに寒気がする…。





「あれ?晃、まだ起きてたんですか?」

縁側に座って十数えたくらいで、総司がどこからかやってきた。

「総司か。いや、今少し目が覚めたから。
 今巡察終わったのか?」
「えぇ。…それより晃、顔色が悪いような気がしますが……大丈夫ですか?」
「今でもまだ、鮮明に記憶に残ってるんだよな…。」


――まだはっきりと覚えている、あの恐怖。

――神谷さんも大した事なくて本当に良かった。



「何がですか?」
「何でもねぇよ。
 ――――――さてと!もう一眠りするか!」

縁側から腰を上げて、伸びをした。

「そうですね。じゃあお休みなさい。」
「お休みー」

嫌な事を深く聞いて来なかった総司にはたまに助けられる。
何故か空気だけは読めるのが救いだった。



―――この恐怖が消える事は果たして一生を通してみてもあるのだろうか。


――否、きっとないだろう。でも、きっといつかは薄れる(・・・)日が来るだろう事を祈って生きるしかない―――





時は幕末 文久3年




山城勘二と船戸辰吉が手篭め未遂によって、沖田により隊を追い出された日の深夜であった―――


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