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「すみません。浪士を1人取り逃がしました…。」
「………はぁあああぁぁぁああ?!」
「…すみません。」
「女子押しのけて行て行けば良かった!! 俺なら実践経験何度かあるから捕まえられたかもしれないのに…。」
「すみません…。
 っていうか、普通に人を押しのけてくれば良かったのに…。
 そもそも女子に捕まってたって、私への何かのイヤミですか…。」

言い忘れていたが、晃は怒ると一人称が『俺』になるのだ。


「…総司。」
「は、はい…。」
「お前、初実践でヘマこくとは、随分残念な結果だな?
 土方さんも相当呆れるだろうなあ、総司に。」
「…え………?」

そのまま晃は「ふはははは...」という不気味な笑いをして去っていったのであった。

 










***









「っていうか…。
 てめぇの所為だったんじゃねぇか!神谷さんが此処に入隊したのも何もかも!!」

人差し指を総司に向けて指し、大声を上げた。

「晃!声が大きいですって!」
「あの時お前を信用した俺が馬鹿だったんだ!
 じゃなかったらこの子がここに来る理由も無かったんだろ?!」
「あ、あの、月村先生、沖田先生を責めないで下さい。私が勝手に入隊したんです。」
「でもですよ、神谷さん。男で無い者が――」


女子が入隊する事の大変さを、晃は分かっているのだ。だからこそ神谷の入隊は辞めさせたいのだ。
だが、説得しようと言いかけた時、晃の言葉は神谷によって遮られた。


「月村先生、沖田先生。後生でございます!
 壬生浪士組の使命は、過激派尊攘浪士の鎮圧が主。どうかこの正体はお忘れくださり、私を同志の末端にお置き下さい!
 お願いします!」

神谷は本気だった。目がそう言っている。

「……残念ですが。隊務は女子に勤まるほど甘くはありませんよ。」
「できます!やってみせます!
 そこらの男には絶対に負けません!!」
「…でも、あなたに人が斬れますか?」


神谷はその質問に涙を目に溜めながら「斬れます」と答えた。
本当は、人を斬るのに抵抗がるのではないかと思う。
元々医者の娘だったのだ。これからは今までの生活とは一変する。


「家も家族も失くしました。
 これ以上怖い物などありません!」

けれど、はっきりとそう言った神谷に総司はふっと笑い、晃は言った。

「何かあったら、私に言って下さい。」
「…………え?」
「晃はこんなに力が強くても、男じゃないんです。」
「………はい?」
「その通りの意味です。なんなら証拠でも―――」
「あ、いやっ!そうではなくて!!………本当、なんですか?」
「本当ですよ。お風呂とかは、私に姉が居ますからそこに行って入らせてもらえば大丈夫です。
 本当か疑うんだったら、私の姉に聞いてみて下さい。
 島原で太夫をやってますから。」
「た、太夫…?」

信じられないと言った目を向けてくる神谷に対し、晃はニッコリと笑顔のまま返事をしていく。

「えぇ。名前は”津柚(つゆ) ”です。
 因みに、姉上が私の姉だって言う事は、絶対に話さないで下さいね。
 私が女子だと知っているのも、お津柚という太夫が私の姉だと言うことも、試衛館以来の人しか知らないのでv」
「試衛館…?」
「ええ、そこの道場で集まった人達は知っているんです。
 総司は無論、近藤先生や土方さん、山南さん、井上さん、原田さんや永倉さんや藤堂さんです。
 でも、私が今話した内容は一切他言しないでくださいね?もし喋ったら私自刃しますから。
 あ、そしたら神谷さんに介錯頼んじゃおうかな〜。」

神谷を見ていると、晃が『自刃』と口にした瞬間にギョッとした顔をしたのがはっきりと分かるほどに分かりやすい反応だった。
これは一種の晃の悪知恵であるのだが。
最近まで女子だったはずの神谷にとって、覚悟は決めたと言っても人斬りをする精神はまだないだろう。
そう踏んだ晃は、彼女に自刃の上に自分の介錯を頼んで確実に喋らせないようにしたのだ。

そして絶対口にしないと心に決めた神谷は、別の疑問を口にした。


「この浪士組の幹部のほとんどが知っている事になるんじゃないですか!
 よく先生をお許しになられましたね…。特に、土方副長とか。」
「…まぁ、私が必死で頼み込みましたからね。
 京都に来るのは皆に猛反対されたんですよ。
 でも、何だかんだ言っても、皆さんは私に強力してくれますから。とても助かってますよ。
 だから、あなたも困ったことがあったら何なりと私に言ってくださいね。」




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