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とうとう「美湯を見捨てて先に屋上に上がると、もう落書きは半分くらい消されていた。
嫌々ながら、という心情が行動に表れたようにのっそりとした動きでブラシを動かすナルト。


「あれ?ちゃんと自分で消してるんだ。」


己のこの疲労感の原因である人物が屋上へとやってきたと分かると、また少し疲労感が増した気がした。




頼むから、俺をこれ以上疲れさせないでくれ…。
本当は今朝早く任務から帰ってきたばっかでクタクタなんだよなあ。



「にしてもナルトも中々良い絵描いてたのにな。もったいない。」
「こら美湯!!何が良い絵だ!火影様の顔岩に落書きなんかするか普通!
 お前これ以上余計な事言うなよ!ナルトがまた調子に乗る!
 だいたいなあ、―――――」


火影の住まうこの建物から顔岩までは距離はそれなりにあるが、ぼそりと呟いた程度の声を聞き取るとはなかなか耳が良い。

「…地獄耳。」

チッと舌打ちをした美湯に、またしても顔岩の方から怒声が飛んでくる。
これを地獄耳と呼ばずに何と言う。


「…あーあ、また始まった、イルカの説教。」
「はぁ…。」


カカシのささやかな願いとは裏腹に、どうも疲労は増える一方らしい。












***











「任務じゃ、美湯。」


任務。
忍という職業をしていれば誰もが聞く言葉だ。
火影室に呼び出したら大抵任務の話だが、なぜ突然改まって告げたのだろう。
とっとと用件だけ伝えれば良いものを。




「へぇ。どんな?」
「護衛任務じゃ。が、ただの護衛ではない。」
「――どういう意味?」

”ただの任務ではない。”
その言葉に、場の空気が少し張り詰める。

護衛任務なら今まで数え切れないほどやってきたが、今更大名の護衛でも「ただの護衛ではない」とはまず言われない。
一体、何の護衛だろうか。




「任務はS級じゃ。美湯には悪いが、これから下忍になってもらう。」
「…………………………は?」

とんでもなく声が裏返った。
どうして…。
上忍の筈の自分が、なぜ今さら下忍に逆戻りしなければならいないのか。
今まで必死に努力して上忍になって、力をつけてきたのに、今更下忍だと?!
下忍になってS級任務って、何かおかしくないか?!


「それって、上忍失格ってこと?!」
「頼むから大声を出さんでくれ。」


今までに無いほど焦っている美湯に対し、落ち着き払っている火影。




「って言ったって火影様!どういう意味?!今更どうして下忍なんかに?!」

"なんか"という言葉に、失礼な言い方をするなと言いたかったが、自分が言う順番を間違えた。
筋道を立てて話をするべきだったのだ、この人には。
まったく、これでよく上忍などやっていられる。ましてや医療忍者でもあるのだと言うのだ。
今にも掴みかかりそうな勢いのこの状況を見て、誰が信じるだろう。
立派に医者としてやっているのは知っているが、時々信じがたくなってくる。
ああ、頭が痛い。

「落ち着け美湯。実際にお前のデータまでを下忍にするわけではない。」
「……………え?そうなの?なんだ…。びっくりしたー。」

急に上がったテンションが下がった。
しかし火影の前だという事を分かっているのか否か、胡坐を掻いてその場に座り込んだ。
胡坐くらいで一々叱る訳ではないが、がさつな性格だ。そして将来が心配だ。

「えーっと。…で?どーやって上忍が下忍なんかになるのさ。」
「新しい下忍を増やす。お前が変化して新人ルーキーになるんじゃ。」
「ああ、なるほど!じゃあ心配ないか。
 あー。心配しすぎて損した。
 で、護衛するのは誰?」

護衛する必要のある人物と言えば、あえて言ったとしても1人―――――ナルトくらいなものなのに。
わざわざあたしが変化までする必要もあるんだろうか?

「1人はもう分かっておるじゃろう。九尾を封印されているナルトじゃ。
 そしてもう1人。うちはサスケ。」
「……………サ、スケ?」

ナルトは分かる。
腹に封印してある、かつて木の葉を壊滅の危機にまで陥れた九尾が、ナルトを乗っ取るような事をしないように。止めるように。
または、尾獣が目当ての奴らから守るため。


―――――けど、どうしてサスケ?
目的は写輪眼?でも、そうだとしたらどうして?

「そしたら、あたし達の日下部一族でもいいんじゃないの?」





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