政務官カシム×王様アリババ君




「これが、今月の出荷量の資料です。天候が味方をしたのか、豊作だそうですよ」

差し出された資料に目を通す。今月は台風が来るとか来ないとかで心配されていたが、どうやらそれも杞憂に終わったらしい。

「そっか、ありがとうカシム。残り、そこ置いといて。」

正午の柔らかい日差しが部屋を包む。今日は天気が良いから換気がてらに窓を開けていて、そこから涼しい風が吹き込んだ。秋だなぁ、なんてしんみりとしていたら、急に紅茶が飲みたくなってきた。しかし俺は今大量の仕事に終われていて身動きがとれない。仕方なく資料を受け取りに来た部下に「ごめん、悪いけど君、お茶入れて貰えない?」と頼めば、部下が返事をするより先にカシムがティーセットを持ち上げた。

「ああ、それなら俺がやります。・・・下がって良いぞ。」

そういって先程まで俺の机の前にいたのにくるりと方向転換し、用意されたティーサーバーにテキパキと代わりにお茶を入れ始めたカシムに申し訳なさそうにする部下。それに「大丈夫だから下がっていいよ」と言えば行儀よく一礼したその子は扉の外へ消えていった。その後ろ姿を見送っていると突然後頭部に衝撃が走り、俺は呻き声をあげて大袈裟に机に倒れてやった。

「う〜いてえよカシム〜」
「うるせえ、俺に入れろと命令するなんてずいぶん偉くなったなアリババよお。」
「いや、俺一応王様だから。しかもカシムが入れたんだろ〜」

そういって後ろに視線を促せば、やはりそこにはカシムがいた。片手にお盆を持っているので、多分あれで殴ったのだろう。あんまりの仕打ちに俺は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
カシムが敬語を使うようになって随分経つ。カシムには到底似合わない敬語だが、それなりに板に着いてきた。が、やはり俺にとっては慣れないもので、だからやっぱりこっちの方が楽だし落ち着く。流石に他の部下とか食客が居るときは嘗められては困ると言うことで敬語だが、こうして二人だけの時とか、あとモルジアナやアラジンなどの昔からの馴染みの前なら敬語は取れる。カシムもやはり敬語は嫌なのかすぐに人を追い返したがった。(今わざわざお茶を入れてくれたのもソレが目的だろう。)

「ちぇ〜俺がこんなに頑張ってんのに、カシムは暴力かよ〜・・・」

「モチベーション下がる〜」と、気だるさをあからさまに表現すると、カシムは呆れたような、しかしどこか柔らかい声を出した。

「申し訳ありません我が王よ。ところで王の為に美味しい紅茶を入れたのですが、もしよければ。」

そう恭しくお辞儀をされて、にんまりと微笑んだ。

「焼き立てのスコーンも欲しいなぁ」
「はいはい分かりました、我が侭王よ。」

そう言って軽く俺の頭を叩くカシム。調理場にスコーンをもらいにいくのかと思えば、コトリと良い香りがする紅茶と、スコーンが目の前に置かれた。

「え、何々予想済み?」
「お前は分かり安すぎなんだよ。」
「うわー!!やっぱりウチの政務官様様には勝てねーや!!」

ハハッと笑ってティーカップに手を着ける。ふんわりと香るストロベリーの香り。仄かに甘いそれをすすると、喉から胃にかけて温かさが伝わった。最初は紅茶ひとつ入れるのに一苦労だったカシムが今ではもう上手く入れられる所か、俺好みに味付けまでできるようになっている。はぁ、と溜め息を吐けば「ジジくせぇ」と言ったカシム。いつの間にか俺の横に椅子を置いていて、カシムも紅茶をすすっていた。

甘い。苺の甘さ。
ふんわりと胃に灯る温かさは紅茶による物ではない。

あぁ、幸せだな、と思えた。毎日仕事だし、今も目の前にまだ手の着けていない資料の山があるけれど、それでもこんな平和な一コマが幸せだった。

「満足して頂けましたか?」
「んー・・・」

そうからかう様に聞いてきたカシムに、顎に指を当ててから悪戯に微笑んだ。

「あとスコーンより甘いのがあれば、満点」

そういえば、ふはっと吹き出したカシムが発したのは、俺を飛びっきり甘やかしてくれる声。

「仰せのままに、我が王よ」

触れた温もりは、甘い味がした。



甘やかな忠誠を誓う
それは、むせかえるような甘さ。






ようやく書けた政務官カシムさん×アリババ王。ハリウッド的な甘さを出したかった。でなかった。