―12月25日?ああ。クリスマスか。クリスマスは大切な人と過ごすんだぜ?

―そうなんですか?

―ああ、俺は昔母さんとマリアム、それからカシムと過ごした。

―ふうん、そうなんだねえ。あ、じゃあアリババ君、モルさん!!


あのね、―――


うっし今日の訓練はここまでだな!!…あん?強くなったかって?ばあかお前なんかまだまだ、俺の爪の先にだってとどいてねーよ!!…まあ俺と初めてやった時よかは強くなってんじゃねーの?うお!!あっぶねーなあ飛びつくな!!ったく、お前けいこの後ボロボロすぎんだよとりあえず風呂入ってこい風呂!!
…、お、そうだ、おいアリババ、今日これから飲むの付き合えや。クリスマスだろ?お前どうせ予定もねーんだからさ!!…あ?今日はだめだ?今日は今日はって言っていつもキャンセルしてんじゃねーかお前!!ふざけんな今日くらいは付き合えよ!!あっこら待てよ!!おいアリババ!!
…くっそ逃げやがった…あいつ明日覚えておけよ…みっちりしごいてやる…
…にしても、なんかいつものはぐらかす感じじゃなくてはっきりと断ってたけど…あいつ予定でもあんのか?




――で、この命令式だと水魔法と炎魔法の融合になるの!!うんうん、アラジンはやっぱりセンスがあるわ!!すっごく上達した!!じゃあ次は…あら、いつの間にかこんな時間になってたのね。うーん、でもこの後からがおもろいんだけどなあ…よしアラジン!!もう少しだけ…、
…え?今日はこれでおしまい?急いでるの?なら仕方ないわね……そ、そう、…あ、謝らなくていいのよ!!うん、仕方ない仕方ない!!じゃあね!!気にしないでいいわよ!!それじゃあまた明日!!
…はあ。予定かあ…まあ弟子と一緒にクリスマスってのも変な話だけど…。…ん?てことは、もしかして、え、アラジンに、えええええ!?





…ふ、だいぶ動きが良くなってきた。本当だ。今のモルジアナなら先輩となら余裕で勝てる。…モルジアナは才能がある。ファナリスの末裔だからじゃない。守りたいという明確な目標があるから強くなれる。だから自信を持て。
…、…。どうした。…さっきからずっと日を気にしている。何か気になることでもあるのか。…、……。いや、話したくないなら、良い。…別にモルジアナを困らせたいわけじゃない。…そうか、わかった。それなら今日はここまでだ。いいや、良い。大切なことだ、行って来い。ああ、また明日。
…、…よかったなモルジアナ。



「…で、お前はアラジンに振られてのこのこここに来たわけか!!はっざまあ!!!」
「うるっさいわねえ!!あんただってアリババ君に断られたんでしょ!!わたしは違うわよばーか!!」
「なんだとお!?」

がやがやとうるさい酒場で、その声はよく聞こえる。クリスマスだからかいつもより人が多く感じられる。シャルルカンはグラスに入ったビールをグイ、とあおってからそのグラスを机にたたきつけるように強く置いた。

「だいたい師匠のとの約束すっぽかすとか何様だあいつ!!」
「先輩がただ今日一方的に言っただけでしょう。」
「んだとマスルールもっかい言ってみろ!!だいたいお前だって似たようなもんだろうが!!」
「俺は先輩と違ってモルジアナを誘って断られたわけじゃないですし、俺はモルジアナ達の予定を知ってる。」
「えっ」
「マスルール知ってるの!?」

無言でコクリとうなずいたマスルールに、シャルルカンとヤムライハはほんの少しショックを受けた。自分たちは何も聞いていなかったのに…と落胆する二人に構わずマスルールはただ黙々と目の前にある肉を食べ続けた。




「お待たせしました…」
「いや、大丈夫だよモルさん!!」
「ああ、俺たちだってさっき来たばっかだしな!!」

そう言って頭を下げるモルジアナに笑いながらいうアリババとアラジン。それに已然申し訳なさそうにするモルジアナにアリババは背中をたたきながら楽しそうに言った。

「まあ、いいじゃねーか今日はさ、みんなで過ごせるんだし!!」
「そうだよモルさん!!僕たちはモルさんと過ごせてすごくうれしいよ!!」
「アリババさん、アラジン…」

二人のやさしい言葉に、モルジアナは胸が熱くなった。きゅう、と縮んでからゆっくりとほどけていく心臓を押さえながら「ありがとうございます」と言ってほほを緩めた。
今日という日を一緒に過ごそうといったのはアラジンだった。アリババの"大切な人と過ごす"という言葉にひかれたのだろう。アラジンは真っ先に思い浮かんだ二人とクリスマスを過ごしたいと思ったのだ。本当は師匠であるヤムライハやシンドバッドとも一緒に過ごしたいと思ったが、ヤムライハもシンドバッドも、みんなきっと忙しいだろう、そう思ったアラジンは、三人でクリスマスを、と提案したのだ。それから、アラジンは自覚していないかもしれないが、三人だけで、と言う響きに少しうれしさを感じたのだろう。心が温かくなって、それから少しの優越感。アラジンがそれを自覚するにはまだ幼すぎるが、確かにそれは心にあった。
今日は皆、何を誘われてもこれを最優先させようと決めていたのだ。だからアリババもアラジンも、師匠である二人からの誘いを断ってここまで来た。部屋には湯気を立てている料理。そして三人の手元にはプレゼントがあった。モルジアナはアリババから、アリババはアラジンから、アラジンはモルジアナからの贈り物だ。

「モルさんは何をもらったんだい?」
「私は花の髪飾りです。こんなきれいなものを…」
「良いんだって、俺がモルジアナにあげたかったんだしさ!!」

そういったアリババの眩しい笑顔に、モルジアナは頬がだらしなく緩んでしまいそうになってあわてて引き締めるべく頬をたたいた。不思議そうに見つめていたアリババとアラジンに「アリババさんは何を?」と聞くと、アリババはガラスでできた鳥の置物を見せた。

「これ、きれいだろ?見てるとルフが肉眼で見えるんだぜ!!」
「本当ですね。きれいです。」
「アラジンは何もらったんだ?」


そう言われて「僕はこれさ!!」と言って取り出したのは木彫りでできたアラジンの人形だった。周りには木の実や花があしらわれている。

「うわ!!すっげーかわいい!!」
「モルさんの手作りなんだって!!」
「すみませんこんなもので…」
「ううん、すっごく嬉しいよ!!ありがとう!!」

その言葉を聞いてほっとしたモルジアナと、嬉しそうに笑うアラジンにアリババは「ふふふ…」と何か不敵に笑いながらベットにしたからなにかごそごそと取り出す。じゃーん!!という口頭での効果音とともに出てきたのは小さなホールケーキだった。目を輝かせる二人にアリババはふふんと自慢げに笑う。

「俺の手作りだぜ!!」
「すごいよアリババ君!!」
「ありがとうございますアリババさん」

笑ってコップに飲み物を注ぐアリババはアラジンとモルジアナにそれぞれコップを渡す。お互いを見合ってからふふ、と楽しそうに笑った。

「それじゃあ」
「はい」
「うん!!」

メリークリスマス

そう言って笑いあい、ふわふわと柔らかい雪が降った12月25日。


I hope that to you
Oh, it's happy!