「サンタさんはいるよ!!」

いねーよまだそんなこと言ってんのかよアリババ

「ふんだ!!カシムは悪い子だからこないんだよ!!」

ふーん、じゃあ俺がいい子になったらくんの?

「おう!!」


「サンタさんはいい子にくるんだからな!!」





「うおああああ…さみいいいいい…っ!!」
「ばあかこんなで寒いとか言ってんじゃねーよまだ12月だろーが。」
「もう12月の間違いだろ!!あー無理。さみい。」

そういって情けなく手に息を吹きかけ寒さに震えているアリババの頭をひっぱたく。いってえー!!と叫んでわめき散らすアリババを軽くあしらいながら灰色の空を見上げた。分厚い雲に覆われている空は今にも雪を散らしそうな色だ。このバルバットにもとうとう冬が訪れた。貧しいスラムの俺たちは、餓死や病死などただでさえ死と隣り合わせなのに、冬はそれに加えて凍死が加わる。団内に住み着いているガキたちの体調管理に目を配らなければならない時期だ。隣の相棒はもう子供なんかじゃないのに、子供と同じ、それ以上に気を配らなければならないのだが。寒い寒いとごねているアリババを見て、今日の夜は暖かいもんでも食うかと考えていたところで、団内に住み着いているガキどもが俺たちを見つけるなりわらわらと集まってきた。

「あー!!カシムとアリババだあー!!」
「おかえりー!!」

そういって足元にじゃれ付いてくるガキどもをアリババは「よおお前ら元気か?」と声をかけていて、俺も服を引っ張ってくる奴を一人抱き上げてあやす。この光景は珍しいものではなく、前に一度俺とアリババがガキどもをあやしているのを見た団員の一人が夫婦みたいだと言ったときにアリババは顔を真っ赤にしていた。すると騒いでいたガキの一人が「ねえねえ」とアリババを見上げる。

「ん?なんだ?」
「あたしに、さんたさんくるかなあ?」

その言葉を聞いたほかのガキどもは「さんたってなにー?」とか、知ってるらしい奴らは「プレゼントほしー!!」などと言っている。が、いくら義賊で金目当てのものを貴族から巻き上げてるといえども所詮俺たちはスラムの貧しい市民だ。こんな大勢のガキどもにプレゼントを買う金なんてものはない。どうするんだとみていればアリババは、そのガキの目線に合わせるように座り込んでからふんわりと笑った。

「来るさ。お前らがいい子にしてたらな」
「ほんと!?」

そう目を輝かせるガキに「本当だぜ?」と言って頭をなでるアリババは「ただしいい子にしてたらの話だけどな」といたずらっぽく笑った。



「…どーすんだよあんなこと言って。」

ガキどもを蹴散らしてアリババの部屋に来た俺は煙草に火をつけながらちらりとアリババをみやる。アリババは何のことを言われているのかわからないらしく俺を見て「何が?」なんて抜かすから俺は吸った煙草の息をその無駄に小奇麗な顔に吹きかけてやった。瞬間、盛大に咳き込むアリババに「プレゼントだよ」という。

「う"ぇっほ!!げっほ!!ん"え?…あー、あれか。」
「そうだよ。どうすんだそんな金なんかねーぞ。ましてやサンタなんていねーのに」
「うるせーサンタさんはいるんだよ!!」

「純粋な心に」と小さく付け足したアリババをみて、ああこいつは昔からこういう奴だったと思い出す。昔もこいつは同じ会話をしたとき、同じようにサンタがいないことを全否定していた。今ではもう本当はサンタなんていないとわかっているのだろうが、まあまだ言っていたいのだろう。

「うーん…どうしようカシム」
「考えてなかったのかよ」
「いや、うーん…あ、そうだ。カシムは何が欲しいんだよ?」
「あ?」

そう聞かれて、それがプレゼントのことを指していると気づくのにそう時間はかからなかった。なぜか期待のまなざしをむけられるも、それを軽くあしらって「ねえよ別に」とだけ言った。

「ないってことはないだろー!?」
「うっせーよ。あったとしても」

そんな簡単に手に入んないもんだからいいんだよ。

そういって煙草の煙を吐き出す。

そう、どれだけあがいたって、この綺麗な蜂蜜色は手に入らないんだ。





その日の夜はとにかくひどかった。だれが言い出したのか知らないがクリスマスなんだから騒ごうなどという提案に悪乗りした団員はとにかく質が悪い。酒の入った状態では上下関係が曖昧になるので俺もアリババも問答無用で酒を注がれた。悪酔いした団員をあしらうことに手いっぱいだったからその後アリババはどうなったか知らないが、これ以上酔わされてたまるかと、俺はいつの間にかできていた大量の死骸を踏み分けて自室へと戻った。とにかく疲れた。さっさと寝ようとベットに寝転んだ俺は、沈む意識の中、キイ、と小さくドアの開く音を聞いてガバリと起き上る。見れば今まさにドアを閉めようとしている、変な仮面をした赤い服の…

「…は?」

思わず間抜けな声が出た。赤い服。顔を覆う謎の仮面。一瞬誰だか分らなかったが、服と同じく赤い帽子からはみ出る蜂蜜を見て納得した。同時におかしくて吹き出してしまう。しかしその赤い不審者は腰に手を当てて声高らかに言った。

「俺はサンタだ!!」
「お、おう」
「サンタさんはいい子にプレゼントを届けるんです!!」
「…おう。」
「カシム君、君は微妙にいい子だ!!」

そういわれて口角がヒクリとする。微妙ってなんだ微妙って。失礼な言葉にカチンと来ているとそのサンタは胸を張りながらベットに近づいて話を続ける。(その仮面の下はおそらく渾身のドヤ顔なのだろう)

「だから、プレゼントも半分だ!!」
「は?」

言われた意味の分からない言葉に思わず聞き返すと、じじくさい言葉を吐きながらなぜか隣に座ってきたサンタはもう一度「だから、半分だけプレゼントやるんだよ」という。一向に意味がくみ取れなくてサンタのほうを見れば、そのは赤くて。

(…ああ、そういうことか。)

「…いいのかよ?」
「っは、半分だぞ!?半分だからな!?」

聞けばより耳を真っ赤にして慌ててそう念を押すサンタに、俺は笑いながらその仮面に手をかけた。

「でもよおサンタさん、俺今年は超いい子にしてたぜ?欲しいもんが近くにあっても無理やり奪わなかったし、」
「は、」
「それを傷つけないように大切にしてきたし」
「な、え、」
「だからさ、」

全部くれよ。

そういって手にかけた仮面を外せば、出てきたそのサンタの顔は真っ赤で。視線を横にずらしながらかみしめてる唇を親指でなぞった。

「…ずりぃ」
「でもくれるんだろ?」


すると「…メリークリスマス、カシム。」と小さな声で言ったかわいいサンタに、俺は接吻けた。






「あー!!アリババ!!」

ドタバタとうるさい足音がするかと思えば、次の瞬間隣から「ぐぇ!!」というまずい声が聞こえた。見ればアリババの腰には昨日話していたガキどもがいて、なぜかおこりながらその手には一様に花が握られていた。

「どうしたんだこれ。」
「あ、カシム!!起きたら枕元においてあったんだよ!!アリババ!!俺サンタにせんしゃが欲しいって手紙に書いたのににこなかった!!」
「んな物騒なもんやれるか!!」

ああ、そうしたのかと納得すると同時にあきれもした。多分ガキどもが寝てから枕元に置いたのだろう。冬だというのにいったいどこから持ってきたのか。ぎゃーぎゃーと騒いでいるアリババたちを見てため息をついた俺は不満そうにしている昨日アリババにサンタは来るかと聞いてたガキの花を取って頭に指してやる。

「いいかお前ら。サンタはなあ、実はスラム出身なんだ。」
「え!?ほんとに!?」
「そうなのかカシム!?」
「うるせえアリババ。ほんとたぜ。だからそんな高価なもんはやれねーんだよ。もしくはお前らがちゃんといい子じゃなかったからだろ。」
「えー!?嘘だあ!!」
「ほんとだって。だって俺昨日かわいいサンタさんにあって、プレゼントちゃんともらったし。」
「えー!?」
「っな!!」

ようやく意味が分かったのかこちらを勢いよく向いたアリババの顔が赤くて思わず笑ってしまう。何をもらったのかと聞いてくるガキを適当に避けて俺は歩き出した。その後ろにアリババもついてくる。その顔は依然赤いままで、こちらをにらんでいた。

「あながち間違いでもねーだろ?」
「…」

そういえばふてくされたように黙るアリババを見て吹き出した。

「で?さっきぶつかられてたけど腰はだいじょーぶなのかよサンタさん?」
「っ死ね!!」


give you to me
Thank you for a wonderful plesent.