夕日は僕たちがキララを出る頃にはもう地平線に消えかけていて、ゲームセンターで寄り道をした帰りにはもう完全に姿を消していた。今見えるのは下の方にいる月と、数個の星だけだ。つい最近まで熱かったくらいの夜が、今では少し肌寒い位で、僕は両手を擦り合わせた。

「あ〜…寒いぃ…」
「寒いの?」
「ん…トーリ君は寒くないの?」
「うん。」

苦し紛れにはあ、と息を吹きかければ少しだけ寒さが紛れた。それを横で見ていたトーリ君は当たり前のように僕の手を握る。体温が低そうなトーリ君の手は温かかった。
トーリ君はスキンシップが多い。最初はなれないスキンシップにとまどっていたけれど、今では手を握る事が当たり前になっていた。

「本当だ。冷たい…。コンビニでなんか買うかい?」
「や、良いよ、それにお金無駄遣いしたくないし…」

トーリ君の手が温かいのでそのままぎゅっと握ると、少し驚いた様に目を見開いた後、その目元をふわりと綻ばせた。トーリ君は最近よく笑うようになった。それは少し前まで見せていた作り物みたいなのじゃ無くて、本当に心から笑っているような笑顔。(もしかしたら僕の思い過ごしかもしれないけど。)それでも前より沢山笑ってくれる事が嬉しかった。すれ違った女子高生が僕たちを見て「かわいい」と言っていた。僕はなんだか恥ずかしくなって手を離そうとしたけど、トーリ君がいっそう強く握ってきて、トーリ君がこうしていたいなら良いかな、なんて思ってしまった。
しばらく歩いていると人気の少ない道路にさしかかった。トーリ君のお迎えの車がいる道路だ。僕はまたトーリ君の不思議な疑問について「何でだろうね」と苦く笑いながら答えていた。車が見えてきた、と言う所で、トーリ君はぴたりと歩くのをやめた。どうしたの、と声を掛ければ、僕の方に顔を向けた。トーリ君の綺麗な瞳が僕を写す。だから僕もトーリ君の方に体ごと向いた。するとトーリ君の口からいつもの「何で」という言葉が出てきた。

「何?」
「…何で、夜になると太陽は沈んで、暗くなってしまうんだろうね」

今回は僕でも答えられそうな質問だった。だから僕が口を開こうとすると、トーリ君はそれより先に言葉を上乗せしてしまう。

「僕はね、秘め事を隠すためだと思うんだ」
「秘め事?」
「そう。知られてはいけない事。昼は明るいから隠しきれないだろ?だからせめて夜だけでも暗くして、隠しておける様にするんだ。」

僕たちの上にある蛍光灯に二匹の蛾がいて、蛍光灯はジジッと音を立てながら着いたり消えたりを繰り返している。その音を聞きながらなるほど、と感心していると、トーリ君が僕の前髪を掻き上げた。何、と思う前に額に温かくて柔らかいモノが押しつけられた。それはすぐに離れていって、僕がぽかんとしている間にトーリ君は「じゃあ気をつけて、また明日」と言って歩いていってしまった。

パチパチと瞬きをしながらその背中を見送る。トーリ君の車が発車するまで、僕の時間は止まったままだった。ジジッという蛍光灯の音を聞いてようやく我に返る。

秘め事を隠すための、暗闇。
ああ、本当だ。トーリ君の言う通りだ。

「でも、蛍光灯で照らされてるから隠しきれないじゃん」

僕はそう熱い額に掌を起きながら呟いた。



月夜の密会
蛍光灯はまだかろうじてついていた





演処女作。なんか凄く書きやすかった。