終わらないエピローグ




もう1人居るじゃないか、と言った兵助は眉間に皺を寄せていて、少し機嫌が悪くなっていることが見てわかった。けれど、私が覚えている限りでは勘ちゃん、雷蔵、鉢屋、竹谷、私、兵助の全員が1人1回は話し終えたはずだし、それはここに居る全員がわかっていることだ。
まさか竹谷の話が怖くなかったからやり直し、なんてことはないだろうし・・・と思っていると私と同じことを考えていたのか、勘ちゃんが笑いながら兵助に話しかけた。


「いきなり何言ってんだよ。話が面白くなかった八左ヱ門に対するイヤミか?」

「勘右衛門、お前なぁ・・・

「いや、そうじゃない。もう1人居るだろ?ここに」


竹谷の言葉を遮った兵助は、また少し不機嫌になりもう一度さっきと同じ言葉を繰り返した。兵助の言葉を信じるなら、この場にもう一人誰かが居るということになるんだろうけど・・・と考えていると、鉢屋が少し引きつったような笑みを浮かべながら兵助に話しかけた。


「なぁ、それはさっきの怪談の続きか?そうだとすると、もうその話はやめた方が良いぞ」

「何言ってるんだ、怪談の続きとかじゃなくて最初から居ただろ、ずっと」


たしなめるかのようにそう言った鉢屋にも負けずに言葉を返す兵助を見ていると、考えたくはない1つの答えが頭に浮かんだ。
まさか、そんなわけない。とは思いつつも自分たちが座っていた位置を確認すると、皆同じ間隔で空いている隣との間が何故か兵助と勘ちゃんの間だけ少し広がっていて、小さめの大人1人くらいなら丁度入れるくらいのスペースだということに気がついた。
そして恐らく私と同じことを考えたであろう雷蔵が真面目な顔で兵助に優しく話しかけた。


「ねぇ、もしかして僕、三郎、なまえ、勘右衛門、八左ヱ門、そして兵助以外の他にももう1人居て、それが“七人目の誰か”だったりするの?」


その言葉を聞いた兵助は途端に席から立ち上がって、私たちの横を走り抜けていった。あまりに突然だったのでその後姿をボウと眺めていると、我に返った勘ちゃんが兵助の後を追った。
それに続いて八左ヱ門、三郎、雷蔵と一緒に私も兵助の後を追った。








「・・・、お前いきなり走り出してどうしたんだよ」


足の速い兵助に漸く追いつくと、そこはもう学校の外だった。そして八左ヱ門が5人全員が思っているであろう疑問を兵助に問いかけると、兵助は少し困ったような表情を浮かべながら私たちを見た。


「さっきは悪い、てっきりお前たちにも見えてると思ったんだよ」

「・・・っていうことはやっぱりあの場所に“何か”居たんだね?」


兵助の口ぶりからするとそうとしか考えられないことを雷蔵が聞き返すと、兵助は頭を縦に振って“何か”が居たことを肯定した。

兵助が言うには私たちと同じ制服を着た生徒で、“何か”は私たちが怪談話をし始めた時からずっとそこに居たらしい。映画でよくみかける幽霊みたいに怖さを感じるものではなくて、本当に違和感なくそこに“居た”らしい。そして兵助はその生徒を自分でも気付かないほど当たり前に受け止めていて、私たちが帰ろうとしたときはその生徒を無視しているかのように見えて怒ってしまった、とのことだった。


「それにしてもどうして突然走ったの?」

「そうだよ、兵助にはその女の子が居るように見えてたんでしょ?」

「あの時雷蔵が1人ひとりの名前を呼んで“七人目”って言っただろ?あれであの子は皆に見えてないってことがわかったんだ。走ったのは・・・ごめん、怖かったから逃げ出した」


そう言って頭を下げる兵助は本当に申し訳なさそうな顔をしていて、そんな状態の兵助を見ていると許すという選択肢しか選ぶことは出来なかった。


「でも兵助が気付いて良かったね!雷蔵のお陰だけどさ」

「それにしても、何で生徒が“女”だってわかったんだ?」

「えっ」


不思議そうにしながらそう言った兵助の言葉を聞いて、初めて兵助が“生徒”の性別を言っていないことに気がついた。声を上げて黙ってしまった私を心配そうに見る兵助を見ていると、さっきの怪談話を思い出して途端に心臓が早くなってくる。まさか、



「それが、ここにいてはいけない七人目だ」

「・・・っ、」

「なんてな。驚いたか?」


私の耳元のすぐ近くでそう囁くかのように言った鉢屋は、私が振り向いたと同時に悪戯が成功したかのような笑みを浮かべた。


「鉢屋の馬鹿!本当に吃驚したんだからね!・・・っていうかもしかしてこの話って嘘なの?」

「あはは、どうだろうな」


まさか兵助が見たっていう女の人は嘘だったのだろうか、と思いそれを尋ねると、鉢屋は楽しそうな笑顔を浮かべながら話をはぐらかせた。仕方ないので勘ちゃんや雷蔵に聞いてみたものの楽しそうに笑みを浮かべているだけで、兵助や竹谷も本当のことを話してくれる様子はなかった。


「でも思ったより楽しかったね。怪談話もたまにはやってみるもんだなぁ」

「まぁ夏だしな。やれることは全部やらないと。次は何する?」

「海にでも行っちゃう?」

「海行くなら川でバーベキューしようよ。その方が絶対楽しい」

「俺も海より川が良い!虫いっぱいいるしな!」

「また虫かよ。流石生物委員ってところか」


雷蔵、兵助、勘ちゃん、竹谷、鉢屋と一緒に話しながらこれからの夏の計画を立てて帰り道を歩く。他にもプールだとか祭り、花火、昆虫採集・・・と話しているだけでも夏を彩る沢山のものが挙げられた。


夏といえばホラーだよなぁ、なんて思い立って今日怪談話をしたものの、こうして5人と一緒に夏の計画を立てていると、そんな考えは何処かに飛んでしまって結局は6人で過ごせるなら何でも楽しいんだろうなぁ、なんてガラにもないことを思ってしまった。

季節は夏真っ盛り。私たちの夏は始まったばかりだ。

110831


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