「私さ、多分兵太夫のこと好きなんだと思う」


「・・・そりゃあまた何で?」



そう言うと、自分のことを面と向かって好きだと言われた兵太夫は一瞬、驚いたような顔をして私を不審そうに見た。



「兵太夫が他の女の子と一緒に居るところ見ると何かモヤモヤするし、相手が三ちゃんや団蔵とかでもモヤモヤしちゃうからさ」


「・・・へぇ」


「でも私、別に告白してどうこうなろうってワケじゃないんだよ」


「今現在告ってんじゃないの?」


「あぁこれは相談ね。あくまで友達としての相談だよ。私友達少ないからさ、相談出来る人居ないんだよ」


「意味わかんないんだけど」



本当は三治郎に相談したものの、まともに話を聞いてくれず、挙句の果てに兵太夫に直接相談してみたら?と持ちかけられたのは内緒だ。
私の相談理由に納得したのかしていないのか、よくわからない反応を返した兵太夫は、私のくだらない相談をどうでも良さそうに受け流した。そんな兵太夫に、私はまた次の相談を持ちかけてみる。



「でさ、どうしたら良いと思う?私的にはこのままで良いと思ってるんだけどさ、でもこのままモヤモヤしてるだけってのも腹立つっていうか、」


「じゃあ告ってみたらいいんじゃない?」


「・・・兵太夫話聞いてた?私告る気ないって言ったじゃん」



おいおい、と思いながらそう返すと、兵太夫は意地の悪い悪魔のような笑顔でにやりと笑った。



「あれ?そうだっけ?話聞くの面倒だったから聞き流してたよ」


「いやいやあれだからね、これ一応私兵太夫のことで悩んでるからね、一応」



何故か他人事のように話す兵太夫にそう言うと、そんな私の気持ちを知ってか知らずか何食わぬ顔で言葉を続けた。



「ヘぇ、そりゃまた大変だね。で、どうなの?告るの?告らないの?」


「だから告らないって言って、」


「どうするの?」


「だから、」


「僕がどうするのかって聞いてるんだけど?」


「告らな、」


「ヘぇ、やっぱり告白するんだ。精々頑張ってみたら?あぁ、因みに僕の勘によると今ここで大声で告白すると成功率上がるっぽいんだけど」


私が何かを言おうとする度に、それに被せて発言する兵太夫は高圧的な笑みを浮かべていて、何処か腹が立つ。けれど、惚れた弱み故かその笑顔さえもかっこよく見えてしまう。
取りあえずそんな気持ちを悟られないように悪態をつくことにした。



「・・・兵太夫って本当良い性格してるよね」


「嫌だなぁ、褒めても何も出ないってば」



遠回りな嫌味が通じなかったのか、気にしていないのか、あくまでも自分のペースで話を進める兵太夫に頭が痛くなった。そもそも、私が馬鹿みたいに兵太夫本人に相談したこと自体が間違いだったんだ、と今更思っても仕方がない。



「・・・どうしても今じゃないとダメですかね」


「今じゃないと聞いてあげないよ」


「・・・き」


「何て?全然聞こえないなぁ」



何でこんなことになってるんだろう。と思いながらも、こうなったら開き直ってしまおう。と思い、ついに私は告白することを決心した。



「あーもう、兵太夫が好きです。でも別に付き合いたいとかじゃないし、振られるのはわかってるし、だから、」


「別にいいよ」


「・・・今何て、」


「別にいいよって言ったの。何?僕のこと好きなくせに言ったこと聞こえてなかったの?」


「そんなわけじゃないけどね!あまりにも吃驚して!」



まさかの返答に驚いていると、兵太夫はあはは、と楽しそうに笑った。そして次の瞬間、至極当然だとでも言うかのようにあっけらかんと驚くようなことを言い放った。



「っていうかまず、好きでもなかったらなまえなんかに構ってないんだけど?」



そこらへん悪い頭捻って考えなよ、と言葉を続ける兵太夫は、さっきまでと違って何処か照れているような様子で、私はこのきっかけを作ってくれた三治郎に心から感謝するのだった。


140426

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