「尾浜くん」

「んー?どうかした?」

「えっと、そのー・・・」


名前を呼ぶと、にっこり笑顔を浮かべながら私の方を見てくれる尾浜くん。
あぁ、かっこいいなぁ。なんて思いながら後ろ手で隠している紙袋をぎゅ、と握り締める。

はい、と言って今すぐにでも渡したいのに、中々その勇気が出ず体が固まってしまう。もし受け取ってくれなかったらどうしようだとか、美味しくなかったらどうしよう、ラッピングが崩れてぐちゃぐちゃになっていたらどうしよう。その他沢山の不安が今になって溢れてきて、我ながらヘタレだなぁと思いつつも口ごもっていると、そんな私を不思議に思った尾浜くんが真剣な表情で声をかけてくれた。


「何かあった?大丈夫?」

「う、うん」


心配してくれる優しい尾浜くんに感謝しつつも、心を落ち着かせて取り敢えず一度深呼吸をする。
・・・ふぅ。うん、大丈夫だ。というか尾浜くんのために作ったのに、本人に渡さないと全てが水の泡になってしまう。

・・・よし。そう自分を奮起させ、後ろ手で隠していた紙袋、もとい手作りしたショコラマフィンを尾浜くんへと差し出す。


「えっとね、これショコラマフィンなんだけど・・・迷惑じゃなかったら、貰ってくれないかな」


何度も練習した台詞を何とか噛まずに言い切り、尾浜くんの返答を待っていると、言葉よりも先にショコラマフィン入りの紙袋が尾浜くんへと渡った。


「もしかして、これ手作り?」

「うん・・・あ、えっと、味見したから一応不味いことはないと思うんだけど・・・あ、あと変なものは一切入ってないから安心してね!」


今時、というか学生でもないのに手作りなんて重かったかな、と思いながら慌てて弁解をする。
やっぱりデパートや有名店のチョコレートを買えば良かった。そう後悔していると、尾浜くんはそんなあたふたしている私を見て楽しそうに笑った。


「なぁ、開けても良い?」

「うん!良いけど・・・」


まさか目の前で開けてもらえるとは夢にも思ってなかったので、驚きを隠せずにそのまま尾浜くんの行動を見ていると、彼は紙袋からラッピングされたショコラマフィンを一つ取り出し、「いただきます」と一言呟いた。


「え、」


ばくり。そんな音が相応しいほどの大口でショコラマフィンを口へ運んだ尾浜くんはもぐもぐと口を動かし、そのままの勢いでペロリと食べ終えた。


「えー、えっと、どうだった?」


自分で作ったショコラマフィンを食べてくれたことに、叫び出しそうなくらいの喜びを抑えながらそう尋ねると、尾浜くんは顎に手をやり、何かを考えるようなポーズをとった。


「んー。俺的には、もっとチョコチップが沢山入ってても良かったかもなぁ」

「そっか、そうだよね、」


はっきりそう答えてくれた尾浜くんの言葉に、少しショックを受けていると、尾浜くんは続けて「でも、」と口を開いた。


「焼き加減とか、しっとり、ふんわりしてるのは凄い好きだよ。っていうか普通に想像以上に美味くて吃驚したっていう」

「あ・・・ありがとう!!」


予想にもしなかった尾浜くんからの褒め言葉と、間接的でも好きだよという言葉に、これほどにないほど胸がいっぱいになる。
やっぱり勇気を出して手作りを尾浜くんに渡して良かった。そう思っていると、またもや尾浜くんが口を開いた。


「でさ、これって本命?それとも義理?」

「えっ、」


突然本命かと確信をつかれ、心臓が今までの数倍以上に速く、大きくなる。
予定ではマフィンだけ渡して自分の想いは告げず、すぐに退散するつもりだったのに、

どうしよう。そう思い尾浜くんをチラリと見ると、真剣な表情の丸い目が私の方をジッと見ていて、余計に心臓が速くなり、同時に顔が赤くなるのがわかった。
っていうか、これって言わなくても尾浜くんは私の気持ちに気付いてるんじゃないの。誰がどう見ても本命以外の何物でもないだろう。そんなことを考えながらもう一度尾浜くんを見る。

すると、尾浜くんは思わず見とれてしまうくらいの優しい表情でニコリと微笑んだ。


「本命と思って、受け取っても良いってこと?」

優しい笑顔と、他の誰も言えないようなキザな言葉でそのままノックアウト寸前な私は、コクリと頷くことしか出来なかった。





その後、「ありがとう」と嬉しそうに笑った尾浜くんを見て、この人を好きになって良かった、と心の底から思った。


140214
_
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -