恋をすると今まで興味がなかったことまで気になってしまうのは何故だろう。例えば、それまで読み飛ばしていた雑誌にある占いのページや、見向きもしなかった占いの本。それに、姓名判断、星座、血液型などのあらゆる相性占いなどなど。好きな相手との相性が気になって、色んな占いを試してしまう自分が居た。
けれど、結果は散々なものばかりだった。見込みなし、相性度ゼロ、など思わず頭を抱えたくなるほどの言葉の連続に、心が折れそうになったのは言うまでもない。
そればかりか、どの占いで調べても、天秤座O型の理想の彼女像は高く、モデルのような体型や、顔立ちなんて持ち合わせていない私では到底理想像に追いつくのは困難だった。
「あー・・・」
たかが占い、されど占い。占いの結果で全てが決まるとは言えないけれど、一概に無視することも出来ないのが乙女心というものだ。
というか、占いの結果によって恋愛に対するモチベーションが全然違う。世の中には100%に近い相性の人も居るというのに、0%だなんて、神様が見放したとしか思えない。さらにそれがどの占いでも同じ答えなんだから、諦めたくもなってしまう。
「はぁ、」
口から出るのは溜息ばかりで、心がめげそうになっていたときだった。
「さっきから溜息ばっかり吐いてどうしたんだ?」
「うわっ、勘ちゃん・・・!」
「おいおい、化け物でも見たような顔するなよ」
「ご、ごめん、びっくりして」
まさか溜息の理由の張本人と出くわすとは思っていなかったので驚いていると、勘ちゃんは何やら楽しそうな表情で私の隣に座った。
「で、溜息をついてた理由は何なんだ?」
「いやー・・・うん」
「あ、わかった。恋愛ごとだろ?」
「えっ、」
本当のことを言えるはずがないので、どうごまかそうかとしていた矢先、勘ちゃんは人差し指をピンと立てて正解を言い当てた。
「あ、図星なんだ?なまえの好きな人って誰?俺の知ってる奴?」
「えーっと・・・」
目の前に居る貴方です。なんて間違っても言えるはずがなく答えに困っていると、そんな私の様子を見て何かを察したのか、勘ちゃんはにっこりと笑った。
「まぁ、いっか。で、悩んでた理由は?何かあったのか?」
「んー・・・多分悩んでること自体が馬鹿らしいと思うくらい小っちゃいことだよ」
そう明るく返すと、勘ちゃんは丸い目で私をじろりと見て、少し考えるように口を開いた。
「相手にとっては小さなことでも、なまえにとっては溜息つくくらい悩んでるんだろ?俺で良かったら話聞くから言ってみなよ」
まるで菩薩のような勘ちゃんの慈悲深い言葉に感激し、私は悩んでいる理由を素直に打ち明けることにした。
「あはは」
すると、それを聞いた勘ちゃんは、予想にしていなかったのか大口を開けて笑い始めた。好きな人本人に笑われている現実にやっぱり言わなきゃ良かった、と後悔していると人笑いし終えた勘ちゃんが、漸く口を開いた。
「なまえはさ、相性占いの結果だけでその人のことを諦めようとしてるの?」
「いや、そうじゃないけど・・・何ていうか、ここまで全部ダメだと先が見えないんだよね」
大笑いはしたものの、真面目に相談に乗ってくれようとしている勘ちゃんに、私自身も真面目に返すと、勘ちゃんはまたうーん、と唸った。
「でもさ、同じ星座の人なんて数えきれないほど居るし、血液型だってそうじゃん。例えば、俺は天秤座のO型だけど、それって俺一人じゃないだろ?」
勘ちゃんの言う通り、一人だけじゃないことはわかっているし、現に天秤座O型の後輩が居ることも知っている。けれど、やっぱり占いを信じてしまう。
「だって姓名判断もダメだったし・・・」
星座や血液型は百歩譲って気にしないとしても、同姓同名の人なんて中々居ないであろう尾浜勘右衛門という人と相性の悪い私は、もうどうにもならないんじゃないか。そんな意味を込めて言葉を返すと、勘ちゃんはまた少し考え始めた。
自分でも嫌になるくらいのマイナス思考に申し訳なくなっていると、勘ちゃんは何かを思いついたのか指をピンと立てて人の良い笑顔を浮かべた。
「じゃあさ、苗字を変えれば良いんじゃない?」
「え、」
思いもしなかった返答に私が言葉を無くしている間にも、勘ちゃんは言葉を続ける。
「姓名判断って、生まれてから今の自分を占ったものだろ?基本的に女の子は結婚したら違う苗字になるんだし関係ないじゃん」
あまりにもあっけらかんとした答えに驚きを隠せないでいると、勘ちゃんは私の頭をポンポンと撫でながら安心させるように笑った。
「だからさ、なまえがそんなに悩まなくても大丈夫だって!結局決めるのは本人同士なんだし?」
優しい言葉に加え、好きな相手に頭をポンポンとされていることもあって一気に顔の熱が高くなっていることを感じながら、私は出来るだけ顔を隠してお礼を言った。
「あ、ありがとう。頑張ってみる!」
「おー!頑張れよ!」
そんな私を見るや否や、何故か楽しそうな表情をした勘ちゃんは、ポンポンと撫でていた私の髪をくしゃ、と掴んだ。
「え、ちょ、何」
好きな人に髪を触られているという事実にドキドキを隠せないでいると、勘ちゃんは私の髪をグシャグシャと乱しながら、小さい声でボソ、と呟いた。
「まぁ、俺は占いとか気にしないからさ」
「え、」
聞き間違いかと思い顔を上げると、そこには少し顔を赤くさせた勘ちゃんが居て、私は暫くの間勘ちゃんの顔をまともに見ることが出来なかった。
140615