雷蔵と付き合い始めて三か月。手はかろうじで繋いだものの、それ以上の行為にはまだ及んだことがない。そんな現状を仲の良い女友達たちに話すと、友人たちは信じられないといった表情で私を見た。


「三か月も付き合っててキスもなしって・・・不破くんどんだけピュアなの」

「もしかしてアンタ、女として魅力足りないんじゃない?」

「ってかアンタに気使って手出せなかったりして・・・」

「よし、じゃあ次に不破君に会うときは、グロスで唇テカテカにしていきな!」

「ってかアンタ今時キスくらいさせないと振られちゃうよ!?」


口々に好き勝手話す友人たちに面食らったものの、友人たちの言う通りこのまま進展なしのままだと、雷蔵に愛想を吐かされて振られそうで怖い。・・・というわけで、今日私は普段つけない香り付きのリップを塗って雷蔵とのデートに臨んだ。


けれど、キスをするタイミングを掴むことが出来ずにいつの間にかもう帰る時間になっていた。結局何も出来なかったなぁ、なんて思いながら雷蔵に「また明日」と別れの挨拶を言い視線を合わせると、雷蔵は何故か眉を下げて元気のない表情をしていた。


「どうしたの?そんな顔して・・・」

「いや・・・うん・・・」


何かを言おうか言わまいか迷ってうーんと言いながら頭を悩ませている雷蔵。・・・何を考えているんだろう。もしかして別れるとか?なんて嫌な思考が頭をよぎりつつも次の言葉を待っていると、漸く続きを話す決心がついたのか雷蔵は口を開いた。


「あのさ、・・・もしかして今日、楽しくなかった?」

「え、」

「変なこと言ってごめんね。何か今日のなまえちゃんあんまり笑ってないように思っちゃったからさ」


予想だにしていなかった言葉にどう返そうかと悩んでいると、雷蔵は私を見てひきつった様な無理矢理な笑顔を浮かべた。・・・馬鹿だなぁ私。雷蔵がキスをしないだけで相手のことを嫌いになるはずないのに。


「ごめん、あのね・・・」


何とも恥ずかしい理由だったけれど、雷蔵には嘘を吐きたくなかったので素直に思っていたことを打ち明けた。すると、雷蔵は少し驚いたような表情を浮かべてその後にあはは、と声を上げて笑った。


「何だ、そんなことだったのかぁ」

「そんなことって・・・!・・・うん。でもそうだよね。私が馬鹿だった」


取り敢えずは思いが通じ合ったこともあり、くすくすと二人で笑い合っていると、突然雷蔵が真面目な顔で私に問いかけた。


「なまえちゃんはさ、キスしたい?」

「えっ、」


したいと言えばしたい。けれど、いざとなると恥ずかしい。そんな私の複雑な心がわかったのか、雷蔵はふんわりとした笑顔を浮かべた。


「あのね、僕もキスしたくないって言えば嘘になるけど・・・なまえちゃんのこと大事に思ってるからこそ、キスもその先も気軽にしたくないんだ」


雷蔵がそんなことを思ってくれていただなんて夢にも思っていなかったので嬉しさで言葉が出なくなる。


「だからさ、」


そう言いながらにっこりと笑った雷蔵は、自分の人差し指の腹を唇に押し当てる。何をするんだろうとその仕草に目を奪われていると、次の瞬間その人差し指が私の唇に押し当てられていた。


「今日はこれで許して。・・・ね?」


名残惜しそうに私の唇からそっと指を離した雷蔵の頬はいつもより赤く染まっていて、それよりも私の方が何倍も真っ赤に染まっているんだろうな、なんて悪戯っ子のように笑う雷蔵を見ながら思うのだった。



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