自分自身をギリギリまで追い込み、そして勝手に思い詰めて泣く私を見て、彼はいつもこう言った。
「面倒な女だな」
あからさまにうんざりといった彼の表情とその言葉だったけれど、私は苛つきや絶望を何一つ感じなかった。何故なら、そういったときの彼は決まって、ウジウジと泣いている私の頭を大きくて綺麗な手で優しく撫でてくれていて、そして空いている方の手では母親が赤子をあやすときのように、優しく背中を一定のリズムで擦ってくれるのだ。
普段の彼ならば調子の良い笑顔を浮かべながら私の髪をぐしゃぐしゃにしながら笑っているんだろう。なのに、私が泣いているときに限って、目の前の彼は表情や言葉とは裏腹に吃驚するほどに優しくなる。
「三郎、ごめんね、ごめんね」
「あー・・・もう。だから謝るな。本当に面倒な奴だな、お前は」
数え切れないほどの迷惑をかけていることに泣きながらごめん、と何度も謝ると、それさえも鬱陶しそうに彼は眉間にシワを寄せた。
ひとしきり泣いた後に顔を上げると、彼はそれを見計らっていたかのように笑った。それはいつもの意地の悪い笑顔ではなく、どこか慈愛に満ちた表情で、そんな三郎の笑顔を見ていると止まったと思っていた涙腺が緩み、また涙が溢れ出た。
「・・・ったく、お前はもうちょっと上手く生きろよ」
「・・・ごめん、ね、迷惑かけて」
「あー・・・ったく、何回言えばわかるんだか。お前今日それ以上謝ったら、次は口塞いでやるからな」
「え、」
突然そんなことを言われあたふたしている私を見て、彼はいつもみたいに意地悪そうに笑いながら、また私の頭をクシャクシャと撫でた。
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泣き疲れた赤子のように目を腫らして、私の腕の中でスヤスヤ眠るなまえ。
きっと彼女の性格からするに普段は変な意地を張って、一人で居るときも滅多に涙を流さないんだろう。だからこそ、私の前で情けなく涙を流してしまうのかもしれない。
そして何より、私に慰めてほしいという気持ちが涙として現れるんだろうなと勝手に分析をしてみる。多分これは私の自惚れなんかではなくて、大方当たっているであろうと推測が出来る。
あぁ、本当に面倒くさい女だ。まぁ、こんな面倒な女を相手に出来るのは、世の中何処を探し廻っても私くらいしか居ないだろうから仕方なく付き合ってやるか。・・・なんて誰に言うまでもない言い訳を自分に言い聞かせながら、私は腕の中で寝息を立てる彼女を強く抱き締めた。
140212