大学生ともなると色々と重なる出費のせいで金欠にもなる。がしかし働いていたバイト先がこのところの不況で閉店してしまった。そして困ったことに人よりも人見知りが激しい私は新しいバイト先を探すのが億劫になり、これからどうしようかと途方に暮れていた。そんな事情を母に愚痴っていると、母は楽しそうな表情を浮かべて「良いバイトがあるんだけど」と話を持ちかけた。

何でも母の仕事先に居る奥さんの小学生の息子さんが最近成績を落としてしまい、塾に行くか家庭教師を雇うかで悩んでいるらしいのだそうだ。話を聞き流しながらも小学生に勉強は早いんじゃ・・・と思っていると、これからの時代小学校から勉強していないと周りに遅れを取ってしまうということを有り難くも教えて頂いた。


「そこで、アンタが家庭教師になって勉強見てあげればいいのよ。どうせ暇なんだし」

「はぁ!?何で今の話でそう繋がんのよ!」

「一応バイト代は1日2時間辺りで2000円。週1くらいで見て欲しいらしいから月8000円〜1万ってとこかしらね。」

「やらせて頂きます」







そんなやりとりをしたのが先週。そして今日から家庭教師をすることになる笹山さんの家に初回のみ付き添いの母と一緒に辿り着いた。今更になって相手がとんでもなく怖い人だったらどうしよう等の不安が私の胸を駆け回る。そんな私を横目で見た母は「しっかりやるのよ」と言うと心の準備がまだ出来ていなかった私を差し置いてチャイムを鳴らした。

緊張していると、玄関が開き雰囲気から優しそうな女の人が「いらっしゃい」と出迎えてくれた。取り合えず第一関門は突破のようだ。案内されたリビングへと足を運び母と笹山さんのやり取りを聞いていると、どうやら時間より少し早めに着いてしまったので、息子さんはまだ帰ってきていないらしいということがわかった。でも今日の家庭教師を楽しみにしているらしいのであと10分もない内に帰ってくるらしい。それを聞いただけで私の中の息子さんの株が10くらい上がった。
笹山さんが淹れてくださった紅茶を飲みながら息子さんの帰宅を待っていると、玄関の方向から「ただいま」という元気な声が聞こえた。


「おかえり、兵太夫。先生来てるわよ」


慣れない先生呼びに少し照れながら兵太夫くんと呼ばれた男の子は前髪を真っ直ぐに切り揃え少しボロボロになったランドセルを背負った可愛らしい元気な小学生といった印象を与えた。そして兵太夫くんは私を見つめたまま綺麗な表情で笑うと元気良く自己紹介してくれた。


「大川学園初等部4年の笹山兵太夫です。宜しくお願いします!」

「あ、えっと私は大川学園付属大学2年の#name2#なまえです。これから宜しくね、兵太夫くん!」


慌てて私も自己紹介をすると兵太夫くんは「はい!」と元気良く返事をしてくれた。・・・こんな天使みたいな良い子に教えることなんてあるのだろうかと思うほど好印象な兵太夫くんは、机に座っていた私の母と笹山さんを見ると「先生と一緒に部屋で勉強してきます」と告げ、リビングを出た。



兵太夫くんに案内されながら辿り着いた部屋はリビングから少し離れていて、さっきまで賑やかだったことを少し忘れてしまうくらいだった。
年頃の男の子の部屋にしてはきちんと片付けられていて、下手すると私の部屋よりも綺麗なんじゃないかと思うほどだった。どうしようかと思いながらボーッとしていると、そんな私に気付いたのか兵太夫くんは「そこ座りなよ」と楽しそうに笑った。・・・え、


「失礼しま、す?」

「何それ。あとさっきのはダメなんじゃない?普通こういうのはそっちから名乗るべきでしょ。しかも自己紹介すごく慌ててたし。お姉さんそれでも大学生?」

「・・・」

「まぁこれからお世話になるわけだし今日はこれくらいにしといてあげるよ」

「・・・あの、兵太夫、くん?」

「何?その間抜けな表情」


さっきの天使は何処に行ったんだろうか。状況を把握するために頭の中を整理する。部屋に入って扉を閉めた途端、天使兵太夫くんは居なくなり、代わりに悪魔が現れました。ってそんなことを言っている場合じゃない。何だろう。これはもしかして、というかもしかしなくても二重人格っていうものじゃなかろうか。

固まっている私を横目に兵太夫くんは勉強用のテキストを開いて早くも問題を解いていく。そして動かしていた手をピタと止めて私を見ると、悪魔のような笑顔を浮かべながら私に笑いかけた。


「先生、これから宜しくね」



私の家庭教師初回。これから前途多難です


110507

君に出会う

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