今日はバレンタインデー。日本では女の子が好きな人に告白をする日だ。そんなこともあってか朝教室に入ってからというもの、女子男子共にどこかソワソワと緊張し合っているのがよくわかる。かくいう私も、そわそわしている女子の一人だ。女子同士で交換する友チョコや男友達にあげる義理チョコとは別に、綺麗にラッピングされた手作りのチョコレートが鞄の中に入っている。

(あぁ、……どうしよう……)

いつ渡そうかとタイミングを計っているうちに、終わりのHRになってしまった。何だかんだいってモテている彼は今日1日中呼び出されていて、チョコレートを渡すどころか一言も話すことが出来なかった。あぁ、どうしよう!と考えている間にもHRが終わったらしく、学級委員が起立、礼、と号令をかける声が聞こえた。
チョコレートを渡し終えた友達たちがキャッキャッと賑わう中、結局渡せなかったなと思いながら机の中の教科書を鞄に詰めていると、誰かが目の前に立ったのか視界に黒い影が現れた。



「なぁ、俺にはチョコくんねーの?」

「……え、」


突然聞こえた声に思わず顔を上げると、そこには今日1日どうやってチョコを渡そうかと考えていた相手……田島が立っていた。


「泉や三橋や浜田にはあげてたじゃん。何で俺にはくんねーの?」

泉たちにはあげたのはまぎれもない義理チョコだ。運悪くも田島が誰かに呼び出されているときに女友達と一緒に渡したのだ。どうやって切り抜けようと考えている間にも、田島は自分のチョコがない理由を問い詰めてくる。


「えーっと……田島の分、家に忘れてきちゃったんだ、ごめん」

「えぇー!マジかよ!せっかく楽しみにしてたのに!」

あんなに沢山のチョコレートを貰っておいてまだ欲しいのか、欲張りだな……と思っていると、田島は考えもしなかったことを口にした。


「せっかくお前にもらえると思って、誰からもチョコレート受け取らなかったのに!……まぁでも忘れたんじゃ仕方ねーよな!」

そういうと納得したのか、田島は私に別れの挨拶をして足を部活へと向かわせた。そんな田島の後ろ姿が小さくなっていくのを見ながら、たった今田島が口にしたことを頭の中で整理する。


(ちょっと待て。今何て言った?チョコレートを受け取らなかった?え、それって、)


気付くと、足は去ったばかりの田島を追っていた。1日中考えていた渡すタイミングだとかそういうことはすっかり頭の中から抜けていて、考えているのは田島を見つけることだけだった。幸い歩いて部活に向かっていた田島はすぐに見つけることが出来た。


「た、田島!」

「んー?どうした?」

周りの目も気にせずに名前を叫ぶと、私に気付いた田島が部活へと向かっていた足を翻して私の方へと向かってくる。あぁ、どうしよう、でも今しかない!そう決心して鞄の中から少しよろけた箱を取り出すと、目の前に居た田島に向かって差し出した。


「え、えっと、これ、田島の分!」

「……」

私からチョコレートを受け取った田島は珍しく何も言わずに少しよろけた箱をまじまじと眺めている。やっぱり早まったかな、と思いながら田島の様子を伺っていると、田島はいつものような笑みを浮かべた。


「サンキューな!すっげー嬉しい!大事に食う!……いややっぱすぐに食う!誰にも取られたくねーもん!」

そういうと部活が始まで時間がないことに気付いた田島は走って部活へと向かった。田島の後姿を見ながら思ったことは、ただ1つ。……告白をし忘れたということだけだ。



(田島気付いてくれたかな……)
(あれ、アイツ俺の分忘れたんじゃなかったっけ……?)



110214
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