「綾華って本当にバカだね」


この言葉はいつから言われてきただろうか。

私はずっと彼のことが好きだ。
中学、高校と一緒で、ずっと彼を、彼だけを見てきたのだ。それは彼、小湊亮介が青道高校へ行くから決めたほどだ。私は陸上の推薦がもらえたから、青道高校への進学を決めた、という建前を貼り付けて彼を追いかけてきた。そんなあまりお世辞にもいい決め方をしたとは言えない、寧ろよろしくない決め方をしたせいか、大学選びにはとても苦労した。初めてちゃんとまともに自分の進路を考えて、決めたからだ。

中、高と彼を追いかけることは出来たが、大学まではさすがに追いかけることは出来ない。続けてきた陸上は、もう高校で終わりにすると決めたからだ。学部は教育学部にしようと決めたし、彼とは全く違うルートを今後は辿って行くことになるのだろう。それはわかっているけれども、やっぱり私はどうにかして彼の進学先を聞こうと思った。けれど、やめた。

だって彼は、私のことなんて、絶対好きとも何とも思っていないだろうから。

彼の中に、私に対して特別な感情なんて、存在していないはずだから。そんな女に、『どこの大学行くの?』なんて聞かれたくないだろうし、今度こそバレてしまうだろう。偶々、偶然なんて考えは消えてなくなってしまうだろう。

告白なんて恥ずかしくてできない。断られたらどうしよう、とか、関係が拗れたらどうしよう、とか。そんなことばかり考えて、行動できない。それに、私は彼から直接突きつけられる現実を見たくなくて、何も言わずにまた、今年を終える。また、新しい春を迎えようとしているんだ。卒業式を三日に控えて、また同じように後悔して。それを繰り返してる。


「綾華ってば」
「…っ、はい?!何?!」


「さっきから俺が話しかけてるのに、無視するとかいい度胸してるじゃん」といつもの調子で言われる。ぼーっとしていたから、全然話を聞いていなかった。


「ごめんってば。私にだって、ぼーっとするぐらいの悩みはあるんだよ」


『まあ小湊には一生わかんないだろうけどね』と冗談交じりに、いつもの調子で言えば、「何それ」と何オクターブか下がった声で言われる。

私は驚いて、小湊の方を向く。すると声のトーンとは裏腹に、寂しそうな。そんな表情を見せていて。


「綾華でも俺には言えない悩みあるんだ?しかも、俺如きには理解できないような」


如きなんて言ってない。

普段なら笑って、そう言い返すのに、言い返せないぐらい、変な雰囲気を醸し出す小湊に、私は動揺する。けれど、言えない。それは、変わりないから。


「…そりゃ、言えないことの一つや二つ、私にだってあるよ」


大体私たちは、そんな関係でもないじゃない。

そう言えば、小湊は『ふうん、そう』と冷たく言い放ち、教室から出て行く。…だって、事実だ。違うことなんて、後ろめたいことなんて何もない。私たちの間には、友達、同級生という名目の間柄しかないのだから。


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