◎結城哲也




泣きたい。
泣きたい気持ちを堪えていた。

今泣いたら負けなような気がして。けれど、教室に帰り、結城くんがいて。話し出した途端に、切れてしまった。涙腺が、崩壊してしまった。やっぱり私は、諦めきれないんだ。あの舞台で、吹くこと。だってそのために、今まで練習してきたんだもの。なのに、どうして。


「私はね、甲子園の舞台でトランペット吹きたかった。なのに、…したらいけないんだって」
「…」


トランペットを、甲子園のあの舞台で、高らかに、吹きたかっただけ。その為に、今まで練習してきた。大人たちのエゴの為に、どうして私は利用されなきゃいけないの。私はプレイヤーである結城くんに訴えた。泣くなんて、負け犬の遠吠えのようにしか聞こえない。ずっと私はそう思ってた。泣くぐらいなら、自分でどうにかしたらいいじゃないかって。でも、どうにもならないこともあるんだ。努力だけじゃ、その努力が、仇となることもあるんだと思い知った。…すると、結城君は、


「俺が顧問に講義しに行く」
「えっ、」
「桐沢が毎日屋上で練習していたことを、俺は知ってる」
「…」
「それがあったから、キツイ練習も頑張れた。応援歌のように聞こえていた」


影の努力を知ってくれているかのような口ぶりの、結城くんに私は嬉しくなった。努力を認めてくれることは、本当に嬉しくて。『応援歌』と言ってくれて。嬉しかった。そう言ってもらえただけで、いいとまで思うようになってしまった。


「俺は甲子園で、桐沢にヒッティングマーチ吹いてもらいたい」
「…っ結城くん、」
「だから、諦めないでくれ」


まともに話したのは、初めてなのに。結城くんのその言葉は、有難かった。背中を押してくれたような。そんな気持ちになって。


「…もう少し頑張ってみようかな」


君が輝くその日。

私が、あなたの背中を押せるように。





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