◎成宮鳴



私は成宮鳴がきらいだ。あんな自己中心的で目立ちたがり屋で、非協力的な奴、嫌い。私のタイプなんかじゃない。なのに、


「ねー桐沢ーっ」


入学してわずか五ヶ月足らず。どうしてこんなに私はコイツに懐かれているんだろう。私は大して可愛いわけでもなければ、目立つ方でもない。どちらかと言えば真面目タイプであんまり男子と仲良くどうのこうの、なんてしない方の立場にあるはずの人間。なのに、


「ねー桐沢ってば!」
「…っもう、煩い!」


『静かにしてよね!』と隣にいる金髪に怒鳴る。『……怒ってばっかだといつか結線できるぞ』と成宮鳴側の人間なのか、そんなヤジを入れる白河くんに私は溜息を吐く。ああ、もう。何でこんなクラスに私は所属しているんだ。成宮鳴はどうして私なんかを構うのかが全く持って理解できない。私はあんまりワイワイしたがる方じゃない。騒ぐのもあんまり得意じゃないし、どちらかと言えばカフェでのんびり話していたい、と言うタイプ。アウトドアではなく、インドアだ。全くもってこの目の前の金髪とは違うはずなのだ。話だって合うはずもない。なのに、


「お願いだから私に平穏な時間を過ごさせて」
「いいじゃん!楽しい方がいいだろ?」
「…っあのねえ!」


『全ての人間が、アンタの言う事を聞いてくれると思ったら大間違いなの!』と一蹴りして、私は教室を出て言った。ああ、もう。…こんなはずじゃなかったのに。私が、入試の日に事故なんてしなければ、こんなことにはならなかったのに。

大事な公立高校入試の日に、私は事故にあった。その日は大本命の桜沢高校の入試の日で、余裕を持って出て行っていた。すると、大きいバスが私の目の前、視界いっぱいに広がった。渡ろうとしていた所に、突っ込んできたのだ。そしてそこから二カ月の入院と、一カ月おきに数日の検査入院。滑り止めに受けていた稲実に行くしかなくなってしまったのだ。

一年経った今でも、私は後悔している。どうしてあの道を通ったのか。どうしてもう少し遅くに、もう少し早くに渡らなかったのか。どうしてあの時間に、そこに向かったのか。後悔しても、悔やんでも、その時には戻りはしないってわかっているのに。分かっているけれど、悔しくてたまらないんだ。


「桐沢」
「…っ何よ」


教室に戻ってくればまた、あの成宮鳴が笑って私を出迎える。本当に変わり者だと私は思う。こんな、人と関わろうとしない私に、こうやって。


「…っバカじゃないの」


笑いかけてくれる。そこに何の目的があるのかわからないけれど。


「だって仕方ねーじゃん。オイラバカだもん」
「だもんじゃないし…」
「桐沢がただ、好きなだけだし!」


そう言うことを当たり前のように言うのが、信じられないんだよ、と思いながらも。少しだけ、ほんの少しだけ嬉しいという気持ちが芽生えたのは言うまでもない。けれど私は知らなかった。

成宮鳴が私に構う、ほんとうの理由を。

私は気付くことができなかった。




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